冬花




なんだか、成り行きで冬花ちゃんと一緒にチョコレートを作る嵌めになってしまった。
一緒に作るのが嫌ってわけではなかったのだが……。元々私は、冬花ちゃんにチョコレートをあげる予定だったので一緒に作ると少し不都合だっただけだ。あー、それにしても、冬花ちゃんは誰にチョコレートをあげるのだろうか。そればかりがもやもやと頭の中で渦巻いていた。円堂君あたりだろうか……そう思うとなんだか、悔しくて仕方が無い。若しかしたら、友チョコというものをもらえるかもしれないが……。



チョコを細かく刻んで、溶かしている冬花ちゃんの真剣な横顔を見て私は気がつかれないように、ため息を吐いた。誰にあげるか、とか聞けばよかった。まあ……聞いても恥ずかしそうに俯いて、内緒。って言われてしまうだろうけれど。ああ、私の口は堅いから教えてくれないかなぁ……?教えてもらったらその相手に嫌がらせとしか思えないような態度を取ってしまいそうだけど。
「中々、溶けないね」
冬花ちゃんが困ったように、チョコレートを溶かしていた手を止めた。甘いチョコレートの匂いが、室内に充満している。
「そうだねー」
「そういえば、名前ちゃんは誰にあげるの?」
「んー。冬花ちゃんかな」
悪戯な笑みを浮かべて、椅子に腰を下ろして冬花ちゃんを見上げた。
「そっ、か……。私もだよ」



まあ、少し予想していた答えが返ってきた。嬉しくないわけがないが私だけではないはずだ。
「でも、あげるのは私だけじゃないんでしょ?」
そう聞くと、やっぱり冬花ちゃんは頷いた。ああ、やっぱりね、とがっかりした。そんなことわかりきっていたのに、希望を捨てきれないなんて。
「うん。でもね、手作りは名前ちゃんだけ、かな……。他の人のは、ね……買った奴なの」
そこまで言って、冬花はしまった。と罰の悪そうな顔をして私の口に人差し指を押し当てた。
「あ、今のは他の人に内緒……ね」
そして、その指を私の頬へと滑らせてからゆっくりと、離した。なんだろう?と思って冬花ちゃんの指を食い入るように見つめた。
「ほっぺ、チョコついていたよ。つまみ食い……したのね」
ふふっ、といつものあの笑みを浮かべてそのままチョコを口に入れた。どうやら頬についていた物体はチョコだったらしい。冬花ちゃんは愛らしい薄桃色の唇から、チロリと赤い舌を覗かせた。それを見て、顔に熱が集中していくのを感じた。ああ、さっきつまみ食いしたのがばれたのか。チョコレートのあの甘いに頭がくらくらとしてきた。



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