風丸




商店街にある、少し大きめの笹を見上げると色とりどりの短冊が視界に映る。それがひらひらと何かの生き物のように、風に揺れた。風が少し強く吹く。ひらひら、ひら……それは少し風情がある。
「そういえばさ、小さい頃さ短冊何書いたか覚えている?」
その言葉に、俺は短冊から名前に目を向ける。
「さぁ、早く走れますように。とかそんなじゃないか?」
「あー……風丸らしいかも。昔から好きだったもんね。」
風丸にかったこと無いもんね。と苦笑した。そういえば、そうかもしれない。俺にはそれしかなかったから。



「私さぁ、小さい頃某アンパンヒーローとか好きでさ……その某アンパンヒーローみたいになれますように、って書いたんだよね」
あはは、と苦笑して言う。某ヒーローは未だに子供たちに根強い人気のあれだ。それに、なりたいと書いたというのは初耳だが子供の頃に書いたのならばかわいらしいものだ。
「ま、可愛くていいんじゃないか?幼稚園くらいの頃だろ?」
「ん、そうだね……記憶にもないくらい小さい頃だから。未だに、親にからかわれるよ」
俺は名前のからかわれる姿が目に浮かんで思わず押さえきれずに、小さく笑ってしまった。
「あ、一郎太も笑うなんて酷いなぁー」
あまり感情が、篭っていないから怒っているわけではないのかな、と思いつつ「悪い悪い」と謝る。



「俺たちも短冊、書いてくか?」
傍に置いてあった短冊の山から二枚とって渡す。此処の短冊は自由に書いて、飾ることが出来るのだ。といっても、書いているのは殆ど小さな子供だけだが。
「書く!」
そうして、書いた後に短冊をくくりつける。少しだけ賑やかになった、笹が風にまた揺れた。



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