喜多君に嘘ついた!




「喜多君、別れよう」喜多君の切れ長の鋭い目が見開かれたまま、私を凝視している。口は半開きのまま、なんて声をかけたらいいかわからないといった様子だった。喜多君は慎重な性格で、よく言葉を選んでいる節があるのでとても偉いと思うし私たちより断然大人だなと感じるときがある。実際問題、精神年齢はつるんでいる連中の中でも随一だろう。それなのに、こんな精神年齢の低い低次元な嘘をつく私と付き合っているというのだから事実は小説より奇なりと言う言葉はまさしくこのためにあるのだろうと思う。



「あのね、私、聞いちゃったんだ」喜多君が何を、と強張った冷たい声で私に詰問するように尋ねた。「私と喜多君はね、不釣合いだって」喜多君が私をジッと内側を見透かすように見つめて、言った。「俺は聞いたことがない」「……喜多君には聞こえないように言っているんだよ」そっとねそっとね、私に耳打ちをするように言うんだよってへらへらと笑った。実際は嘘なんだけど、嘘か事実かは確認できない。実際に喜多君と私を不釣合いだと思っている人間は掃いて捨てるほどにいるんだと思う。



「……名前は他人に言われたら俺と別れてしまうのか?」「……だって、」嘘だけどあれは私の本心だった。私と喜多君は本当に天と地の差があるほどに違う人種なのだ。運動も出来て頭もよくて、人に気配りも出来る。そんな人間が、運動もまるでからきしで、勉強も平々凡々な私と付き合っているなんて可笑しな話なのだ。そもそも、成立してはいけない話だったのだ。なのに、幸か不幸か話は成立してしまったのだ。交わることのない地平線が交わったのだ。



「……認めない、そんなの認めない!そんな酷い事を言った奴は誰なんだ!」喜多君が感情を直接、表に出すなんて珍しい事もあるなってくらい激昂していた。そんな奴、俺が許さないって言うもんだから、やっぱり、喜多君も天河原の一人なんだなって再認識した。「あのね、ネタばらしすると嘘なんだけど……」「なっ!ついていい嘘と悪い嘘があるだろう?!俺と本気で別れたかったのか……?」一気に熱が引いたのだろう、今度はこちら側に怒りが向いたようだった。「でもね、さっきのは本心、私と喜多君ってあんまり釣り合っているように思えなくて不安に成ったの」そう言った瞬間に無言で強く抱きしめられた。


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