自殺する心



死にゆく体躯
生きるしるべ


「喜多は死にたいんだよ」そういった名前の目が本気だったのを覚えている。俺が死にたい?そんなわけがない、両親にも教えられてきたように“自殺”はいけないことだ。毎日報道されるニュースも、減っていく人口も、自殺も悪い事なんだ。人口も減る一方だ。一時期爆発的に増えていたのが嘘のように右肩下がりに不自然に下がっていっている。名前の言葉は引っかかっていたが、俺は気にしないようにした。……俺は死にたくなんかない。西野空も隼総も居なくなったけれども俺は絶対に自分から命を粗末にするようなことは無い。……きっと西野空だって何処かで生きているんだ。死体は出ていないんだから……。ただ、隼総は本当に死んだらしい、安楽死施設に自分から彼女と行って二度と出てこなかった。



空が青い。いつの時代も青くなったり赤くなったりを繰り返していたのだろうか?仲間たちがどんどん減っていくのを目の当たりにしても、俺には止めるすべも持っていなくて無力感にさいなまれてしまう。そんなある日、両親が死んだ。……犯罪が増えているから他殺か?……違う。あれだけ俺に自殺はよくない事だと教えてきた両親がその身を以て、間違っていたことを証明したのだ。俺の両親は二人して、寝室で仲良く首を吊っていた。俺はこの日初めて世界が、倒錯したのを感じた。



「自殺はよくない事だよ」名前が一変してそんなことを言ったのでふざけているのかと詰め寄れば笑った。「だけども、一概に悪いことだともいえないよね。喜多はなんで、自殺はいけないのかわかる?」名前に言われて俺は考える。自殺してはいけない理由なんて簡単じゃないか。そのあとの処理が大変だし、残されたものが悲しむ。それに自ら命を絶つなんていい事ではないに決まっているじゃないか。「喜多の考えている事なんか簡単にわかるよ。上辺ばっかりの綺麗ごとだよ、具体的に何が悪いかわかっていない。本当に追い詰められている人は、そんな綺麗ごとを言っていられないんだよ、喜多。私たちは当事者だ」名前の目は病んだ人のそれで何処までも続く長く暗い洞窟のようなものだ。底が見えなくて恐ろしい。



俺は死にたくなどない。また言い聞かせるように心の中で呟いてみた。でも、そう教えて、そう何度も諭し続けた両親は、首を吊った。自分たちは間違っていたとその身を以てして教えたのだ。俺は未だに間違った教育を信じている。「道徳、常識にとらわれちゃいけないよ喜多。この世界は狂っている、そして喜多も」もう、誰も俺を常識などで縛らない。誰も。誰も……「ね、喜多」名前の細く肉のあまりついていない手を差し出した。俺は、



「遂に、喜多もか」星降が呟いた。星降は絶対に自ら命を断とうなどと思わなかった。この世の楽しいことを全て楽しんでから、死にたいし。それに……星降はとあることをしていた。だから、死にたくはなかった。「喜多は死なないと思ったんだけど。両親が自殺をしたのは、そんなに堪えたのかな」気を紛らわす様に長い髪の毛をくるくると指先で弄んでそれから、寂しそうに笑った。それを笑っていると捉えるのは、少々可笑しいかもしれないが、顔は笑っていたのでそう表現するのは恐らく間違っていない。「部活はもうできないな、」星降は部活が好きだった、何気ないやり取りも日常も。もう思い出でしかないそれらは未だに輝いていると思えた。最高の日々だった。

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