死にゆく体躯



天河原の人間が死んでいく話。
前の話→自殺シンドローム
次の話→自殺する心


この世界が可笑しくなったのは、俺が生まれる以前から少し可笑しかったらしい。ただ今よりは皆まともだったし、何とかまともだと取り繕っていたレベルだったそうだ。きっかけは何だったのか調べる気にもならないし、知ったところで俺一人では何一つ変えられないだろう。西野空は「じゃあね、また明日ぁ〜。バイバイ」って言って彼女と手を繋ぎいつものように別れたあの日から、連絡が途絶えていて学校にも一度も来ていない。喜多は寂しそうな顔をしていたがきっと、何かを悟っていたんだと思う。俺も西野空に何があったのか、何となくわかっていた。だけど、星降も喜多も俺も……部活の連中も誰もそれを口にすることは無かった。口に出してしまえば俺は西野空が自殺したことを認めてしまうことに成ってしまう気がした。いや、自殺ではないのかもしれない。この世界は今、荒廃していて殺人や強盗、犯罪なんかはよく発生するからだ。でも、西野空の彼女は死にたがっていて、西野空もそれにうんうん、と頷いて同調していたことや、彼女と一緒に消えたことからやっぱり自殺なんだと思う。死体は出てきていない。



「いよいよだね」名前が静かにテレビを見ていった。箱の中の女性が、静かな声色で言った。昔は美人キャスターとして有名だったけれど今は土気色で、なんだか元気がない気がする。まあ、それもそうか、連日のように暗いニュースばかりを話していればきっと気分だって滅入るし、心も病むだろう。「ああ、そうだな」俺は静かにそのニュースに耳を傾けながら名前の言葉に同調した。「また、増設するんだね。処理場が」ぼかした表現だったけれども、自殺をする人間が多すぎて遺体の処理に間に合わないのだ。グロテスクだけれども、仕方がない。俺たちもいつかそこの連中と同じところに入るだろう。



可笑しな世の中だ、昔は生きるため(自分の楽しみの為とかさ)に働いて汗水を流していたと聞いたけれども、そんな話は太古の昔のように感じてしまう。この悲惨な現状を見ていたらそう感じてしまう。「ねえ、隼総。私たちもさ、やってもいいみたいだよ。お金はさ、処理する側に回ってさ、安楽死しようよ」「……そうだな」国が認めたんだ。遂に、認めてしまったんだ……自殺を。この日本という国に安楽死の施設を作ったのだ。お金さえ積めば、誰だって簡単に逝けるシステムを。「死ぬために働くの、か……なんだか奇妙なもんだな」明日の天気に変わった。最近は町を映さなくなった。何故か?……カメラの事を気にせずにそのまま高いところから落ちたりする人間が多発したからだ。「そんなことは無いよ、私たちはいなくなるために生きているんだよ」「よくわかんねぇ」金はきっと数日で何とかなる。この世界は今、死体を処理する側とされる側に分かれている。処理する側に数日まわればいいだけなのだ。……、俺たちもそこの仲間に成るのにな。



「いつか死ぬために今を生きている。それにしても、何回か処理する側に成れば受けられるなんてね。国が遂に認めたのは驚いたけれど、やっぱり確実に死ねるのと苦痛がないのかな?」「だろうな。まあ、でも、やっぱり勝手に自殺するのが主流に成ると思うぜ。わざわざ死ぬために働くなんてばかばかしい。大体誰でも処理する側に回れるなんてさやっぱり、安楽死を推奨しているんだろうな、この世は終わりだ」長らく意味も無くつけていたテレビを消して言った。「学割とかきかねぇかな、」俺たちに明日は無い。だけども、やっぱり平等に等しくやってくる。喜多たちにはまだ言っていない。俺たちが安楽死を選択したことを。

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