企画 | ナノ

洗脳

呼び出されて校舎裏に向かうと、ぼんやりとその場に立つ原君がいた。
どうしたの?何か用事?と声をかけると、手に持っていた少量の液体を口に含み、そのまま私に口付ける。
口の中の液体をそのまま流し込まれ、暫くすると急に体が重くなって、そのまま私の意識は途切れた。



ギシギシと視界が揺れる。
その中で変わらず目の前にあるのが、悲痛な面持ちで私を見つめる原君の顔。

「神流ちゃん、好きだよ。大好き」

もう何十回と囁かれた言葉に、私の脳はぐじゅぐじゅと溶けていく。
どうして原君は悲しそうな顔をしているの?どうしたら笑ってくれる?
私の中で、自分の現状を打開するよりも、原君が笑顔になってくれる方法を探すことが大事だと指令を出される。
むしろ、私の現状すら、どうしてそうなってしまったのか思い出せないくらいだ。
原君に呼び出されて、気が付いたら原君と繋がっていて、あれ、合意の上で原君と今、繋がっているのだっけ?
だったらどうして原君は悲しそうなの?なんで?
なんだかとても大切な人がいた気がするけど、私には思い出せない。

時折大きく響く水音が、さらに思考を溶かしていく。
私の大切な人は原君ではなかったか?
どうしようもなく気持ちが良くて、この状況に疑問が持てなくなっていく。
そういえば、私は原君に気持ちを伝えてないな、なんて思って、かすれる声で呟いた。

「ん、原君、好き、だよ…んぁ、」

前髪で見え隠れする原君の顔は一瞬びっくりしたように目を見開いて、それからふんわりと笑う。

「ありがと、神流ちゃん。大好き」

ちゅっと口の端に降ってくる口付けを受け入れて、原君の首に手を回す。
そうしたら原君が嬉しそうに目を細めて、なんだかそれにとても満足して、私はそのまま流された。



「もう、忘れちゃったかな?これで神流ちゃんは俺のものだね」

愛しげに撫でる原君の手の感覚に目をさます。
原君が何か呟いたような気がして声をかけると、なんでもないよと笑った。

「もう少し寝てていいよ」

そう言って私を労わる原君に、私はまた瞼を閉じる。
その時の原君が、まるで悪魔のような笑みを浮かべていたのを私は知らない。


堕とされた先は



BACK/HOME
- ナノ -