ふわふわ





大晦日と正月を数日後に控えたある日。
菅原はジャージ姿で、遥は洒落たコートとベレー帽に身を固めてショッピングモールにやって来ていた。

今二人の目の前にある棚には、男物の防寒具がずらっと列んでいる。

「旭なぁー…どうしよ、決まらない」
「…これとかは…?」

菅原は既に持っていた渋いグレーのネックウォーマーをぷらぷら揺らしながら悩ましげに呻いた。
その傍ら、隅っこにあったらしいサングラスをとって掛けてみながら遥が聞く。

「うーん…遥がかける分にはそれはそれでアリなんだけど旭がかけるとシャレにならなさそうなんだよなー」
「そか…」

苦笑いしながらよしよしとその頭を撫でる菅原、遥はちょっと残念そうにしながらもサングラスを棚に戻す。

今日二人がここにいるのは、菅原がバレー部年越しの集まりで友人二人に渡すための誕生日プレゼントを購入するためだった。
が、女子と違い色違いでプレゼント、とかは少々やりにくいことがあって即行で決まった澤村へのネックウォーマーと裏腹に東峰へのものが決まらない。

もうネタに走ろうかな、と菅原がモール内の店舗を思い返し始めた時、何かを見付けた遥がふらりと側を離れた。

「…孝支くん…」
「ん?何、遥…」

そして名前を呼ばれて横を向く、と同時にもふっと何かを頭にのせられた。
いや、感覚から言えばこれは「つけられた」だ。

「……?」
「………………」

よくわからなかったし、とそのまま首を傾げて遥の反応を待つ。
が、その当人はと言えばなんとも言えない顔で止まっていた。
嬉しそうにも見えるが、それと同時に困ったようにも見える。

「?何…」

菅原は視線を巡らせて鏡を探した。
すぐに見付かったそれに歩み寄り、覗き込んでぴしりと固まる。

その頭部には、ふわふわした柔らかなグレーのウサギ耳が揺れていた。
我ながら自分の髪色と綺麗にマッチしていると認めざるを得ないそれに戦慄する。

「ちょ、どこにあったのこんなの!ていうかその表情は一体!?」

菅原は捲し立てる勢いで遥の両肩を掴んだ。
そうはしても、肝心のカチューシャを外さない辺りが菅原たる所以だろうか。

「…可愛いかな、と思って…でも違和感が…無さすぎて…」

遥はそろりと視線を泳がせながら小さな声で答えた。
つまりは、あまりのフィット具合にコメントに困ったらしい。
男としてはとてつもなく複雑である。

「…もー…こーゆーのは女の子がやるのが良いんだよ?」

菅原はやれやれと耳を揺らしながらたしなめた。
眼下でしょんぼりと肩を落とした遥が小さく菅原のジャージの裾を握る。

「…ごめんなさい…嫌だった…?」
「…え…あーまぁ…見てんの遥だけだし良いけど…」

しおらしいその姿を見ていれば惚れた弱味もあってもともと大して膨れていない怒りの感情は成りを潜める。
誤魔化すように首をかいていれば、ふと顔を上げた遥が少し別のところを指して口を開く。

「あ…孝支くん…あれ東峰に合いそう…?」
「え?どれ?あ、あれか。うん、いいかもね。もうあれにしよっかな」

つられてそちらに視線をやった菅原はふらりと動き出した遥に続いて足を踏み出した。
が、

「おっと」

頭上でふわふわと揺れるウサ耳を忘れることなく外し、すぐ近くにあった同じコーナーにそれを戻す。
ウサ耳のなくなった菅原の頭をじっと見つめた遥はやや残念そうに眉尻を下げながらもぽつりと漏らした。

「…物足りなくなったね…?」
「いや、こっちがデフォルトだからね?」

苦笑いでまた頭を撫でてやれば、遥はちょっとはにかむように笑ってぎゅうと腕に抱き付いてくる。
コート越しに伝わる温もりと鼻孔をつく少し甘い香りに表情を緩め、菅原は幸せに浸った。

まぁ、悪い時間ではなかったなと菅原はこっそりそんなことを思いながら目的の少し離れた別の棚へと歩き出す。
横で時々肩に頬を寄せる少女のふわふわした髪に今度は自分がこんな色の獣耳でも探してみようかなどと考える。



ただ、菅原は知らなかった。
この後少し目を離した隙に遥がウサ耳を購入し、後々ヤケ半分でつけられることに慣れてしまう日が来ることを。



そんな未来を知りもせず、二人はただ和やかに互いの温もりに頬を緩めていた。
行き交う独り身が、虚しそうに歯噛みしていた。





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