青空の下で | ナノ

「ほら、あなた男の子の服しか今まで着たことないじゃない?」
「え?」

私が写る写真を見ながら言われた一言。
思わず、シカクさんのアルバムと私のそれとを交互に見やる。
・・・・写真に写る私は、男物の服ばかりを身につけていた。
実際、自分自身からも女物を求めたことなんて滅多に・・・いや、一回もないんじゃないか。
スカートだのおしゃれは興味ないし、絶対に動きづらい・・。

「これね、旧家のしきたりなの。男の子が生まれたら、小さい頃は男にはない女のしなやかさを手に入れる為女物を、
女の子が生まれたら、女にはない男のたくましさを手に入れる為男物をそれぞれ着せて屋敷の中で育てるのよ。
・・・ま、実際その程度で手に入るわけないけどね、願掛けのようなものなんですって」
「へー・・・!」
「だからあなたにもずっと男物着せることになってたんだけど・・」

つんつん、とおでこを軽く指で小突かれた・・。

「せっかく女の子なんだから女物着せましょうって私は言ったのにさ、
めんどいからしきたり通りでいいじゃねえかって全く本当あの人は・・」
「え、えっと・・・な、何があったの・・・?」
「ああ、ごめんなさいね。ちょっと思い出しちゃって・・あなた、絶対いつか駄々こねるんじゃないかって思ってたの。
もっと可愛いものが着たいとか、可愛いものがほしいとか・・・それが、全然我侭の一つも無いんですもの、こっちが驚いちゃったわ」

屋敷の中でも外でも関係なくいつも男物ばかり着るし、
かわいいものどころか趣味は将棋とかお茶とかだし、
ヨシノさんから言葉が出てくる度、自分でも「うわぁあ・・・」と穴があったら入りたい気持ちになった。
身内から客観的に見た意見がくるとこうも、娘らしくない行動ばかり私はとっていたのか・・・。

「ご、ご、ごめんなさい・・・・・やっぱり・・女の子が、そういうのダメ、かな・・」

今になっていのの言葉が身に染みてくる。
そうだ、一応自分は奈良家の「長女」なのだ・・・娘らしくしなかったらシカクさんの威厳をつぶすことになるんではないか・・。
子供らしくないことは自覚していた、
女らしくないことも自覚していた、けど・・・。
自分がやってきた行動について今更反省し始め、ロクは顔が引きつっていた。

「最初は私もそう思ってたけどね・・生き方なんて押し付けるもんじゃないし、あなたはあなたなりに元気でいてくれればいいのよ、ロク。
女らしいとか男らしいとか関係無しに、あなたはたった一人の私達の娘なんだから」
「母さん・・・」
「・・奈良家に生まれる女性は珍しい、ってよく言われるのよ。歴代頭主は今まで皆男の人ばっかだし、奈良一族自体に女性はすごく少ないわ。
あなたに今こうして教えているのは、性別のことでこれからどんどんあなたも悩みが増えてくると思うからよ・・・。
でもね、困った時はまず母さんに言いなさいよ?」

ばんばんと肩を痛いくらいにたたかれる。

「私が現頭主様より強い時あるの知ってるでしょ、喧嘩になるとあの人すーぐ謝るんだから!」

だからいつでも頼りにしてね!と、ヨシノさんはまるで子供のようなあどけない笑顔を見せる。
その瞳には、私しか映っていなかった。


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