青空の下で | ナノ

「・・って、いのに言われてね・・」

ところ変わって、奈良家の居間。
どこかどよよんとした雰囲気を纏って帰ってきた娘を見て、ヨシノは不思議に思って聞いてみた。

「それでさっきから暗いわけだ」
「・・」

ふい、とそっぽを向いたロク。
確かにいい成績表だけは毎回持ってくる子だけれど、趣味が将棋、好物が酢昆布、
最近は縁側で玉露を飲むのが至福だともらす娘からは女らしさが感じられないのは事実。
いのちゃんははっきりしてる子だからねえ、とヨシノは苦笑しながら言った。

「うーん・・変わってるつもりなんて、ないのになあ・・」

そう言ってロクは手元にあるこの家のアルバムをぱらりとめくった。
この子はよくアルバムを見る・・それも趣味のうちに入るかもしれない。
変わってない、と言い切る娘の後ろからヨシノもアルバムをのぞく。
そこには三歳の頃の娘が自分達夫婦に挟まれて嬉しそうにしている写真。
・・・並べてみると、この頃はまだ私に似てたわね・・、
ヨシノは悔しいような、面白いような感情を抱えながらうーんと唸るロクに言う。

「変わってるんじゃなくて、似てきてるのよ、あなたがお父さんにね」
「え?」

きょとんとする娘。
こういうたまに見せるあどけない表情が子供らしさを感じさせる。
妙に頭のよすぎる娘もまだまだ子供である、と可愛く思うのだ。

「ちょっと待っててね」

ちょうど娘が帰ってくるまでに家事は一段落していた、
少しくらいならのんびりしてもいいだろう。
・・あの人はちょっと恥ずかしい思いをするだろうが気にしない気にしない。
そう言いながらぱたぱたと長い廊下を走る音を立てながら、ヨシノはまた部屋に戻ってきた。
その手には二冊の本・・・だろうか、それを持って来て。
片方はどこかふるぼけたような、歴史があるような・・ぶ厚い本。
もう片方はまだ表紙が綺麗だった。

「・・・何、それ・・?」

ロクのそんな言葉が来るのを待ってましたといわんばかりに。

「これねー、奈良家の歴代頭主の記録なのよ。写真も一緒なの」

分厚い本を嬉しそうに見せるヨシノ。
・・・それって結構重要な文献扱いなんじゃないでしょうかヨシノさん・・!
こんな簡単に持ってきてもいいものなのだろうか・・・
いや、それ程までに頭主・・シカクさんに、信頼され切ってるということだよね。
ヨシノが目の前で見せてくれるその本に、ロクはすぐ釘付けになった。

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