青空の下で | ナノ

柄にもなく、今日は話こんでしまったな、
ヨシノはその夜遅く帰ってきた夫の姿を迎えながらそのことを伝えた。

「はあ・・・もう言っちまったんか」
「ごめんなさいね・・・でも、一族のことを教えるいい機会だと思ったから」
「・・・ま、いつかは来ることだったしな・・」

シカクが渋い顔をしている理由はよく分かっていた・・。

「けど、正式な跡継ぎについてのことはもう少し時間が経ってから・・・今度は俺の方から話すからよ、
もうこれ以上はばらさないでくれよな、母ちゃん」
「ええ、分かってるわよ」

とくとく、と彼の器に酒をつぐ。
今の彼はいつも恐妻家、といわれているような人ではなく・・・
一族の頭主の顔をしていた。

「・・・ったくよー、女はめんどくさいってことは俺ぁこの一族から知ったようなもんだぜ・・。
きっついことばっかり古い連中は言いやがる」
「だからこそ許婚なんて馬鹿な考えを止めることが出来たのよ」
「ああ・・・流石にそこまで強制しちゃあ可愛そうだしな・・・」

女が少ない一族。
歴史も長いこともあり、男尊女卑思考を持つ者がこの一族には少なくない。
ヨシノがロクを生んだ時も、男子ではないのか、と古株にどやされたことはあるが全部無視した。
・・今はまだロクが幼いから大丈夫だとは思うが・・・成長とともに、娘の存在に対してより強い嫌悪感を出す者も出てくるのは目に見えている。
シカクは、はーとためいきをついた。
娘は、頭がいいとは言えこの一族の全てを知らせるにはまだとても幼い。
そしてこの一族の大きさもまだ知らないだろう。

「・・・分家の連中が手を出す前に全て終わらせたいとは思ってるんだがな、
俺一人の力じゃ、この一族の歴史を覆すには時間がかかる・・・まあ、ちっとばかし待たせちまうのがなんとも残念だ」
「あの子は、強いわ。なんたって、私とあなたの子ですもの」
「そうだな・・・なりは俺みたいで、女らしくさせてあげられなくて後悔してるけどな・・内面の強さがお前に似てくる、って俺は信じてるよ」

笑顔もお前に似て可愛いしな
そう言うとヨシノは照れ隠しに小さくバカ、と言った。

「・・・ねえ、あなた」
「何だ」
「後悔してるつもりじゃないけれど・・・あの子を・・男に産めなかったのは・・」
「それ以上は話すなって何べん言ったよ。惚れた女を泣かせるのはもう俺ぁこりごりよお」
「だって・・・」

ロクを産んだ時、別の一族から嫁いできたヨシノを責める輩は多く、
彼女もまた、自分の一族が生んでしまったくだらないしきたりの中で苦しんでいる一人なのだ。
そんな彼女が見せる、この弱い一面は自分しか見られない。

「あの子はあの子らしく、自由に育てればいい。それを最後まで一緒にあの腐れ切った爺どもに言ってくれたのはお前じゃねえか。
今更泣き言言っても、とっくに遅い時期になっちまったんだよ・・大丈夫だ、いや、絶対大丈夫にしてみせる。
あと数年・・・・俺はこの一族を変えてみせる、絶対にだ」

そっと月明かりが二人を照らしていた。

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