「うおぉーーっ!!星宿ぃ、あの女何とかしてくれ!!」
翌日。
紅蓮がやって来たのは政務室。
「後宮ってのはお前の嫁さん候補だろ!?とっとと娶ってくれ!!」
「冗談を言うな!!素性も知らない女子といきなりそんなこと出来るか!!それに・・・」
「それに!?」
「後宮の女より私の方が美しいっ!!」
どてっ!
あまりのナルシーっぷりに紅蓮はコケた。周りを見ると家臣達までコケている。
「冗談だ」
「思いっ切り本気だろーがっ!!」
「今は妃だなんだとそんなことは問題ではない、国を治めることが大事ではないか。
それにあれは朱雀七星・・・そのようなことは出来ぬ」
「でもよ・・・・本っ当、何とかしてくれよ!あいつのせいで美朱は困ってんだ!」
「!美朱が!?」
『侍女の代わりに私の世話をしてくれない、美朱?』
それは今朝のこと。柳宿は美朱を呼びつけそう言い放った。
『うおぉーーぅ!放せっ、いい加減放せーーーっ!!』
あまりにも逃げることが多いので、紅蓮は終始きっつい拘束姿を妹に晒す羽目に・・・。
当の本人は情けなさ過ぎて涙が出そうだったとかいう・・。
最初は美朱を侍女にしてどうするつもりなのかと思っていたが。
『美朱、髪を結うの手伝いなさいな』
そう言われて美朱がひょいっ、と柳宿の長い髪に触れると。
『痛いわね、ひっぱらないでよ!!』
びしゃっ!!
・・・と、美朱の顔に水ぶっかけるわ。
『ここほこりがついてるわ。ふきなさい、少しでも残ってたら食事抜きよ』
と言って美朱に廊下を掃除させたのだが・・・美朱が綺麗にする傍ら、次々と汚して・・・。
『なぁに、こんなに汚れてるじゃない!』
『あっ・・・!!ちょっと何すんの・・・!!』
『あらごめんなさい手がすべったぁ!!』
ガンッ!!
何とも気持ちよさそうに美朱に机を投げつけた。
潰された蛙のような格好で机の下敷きとなりひくひくとしている妹なんて見たくなかった・・・。
『てめー、いい加減にしろよ!!俺の美朱に何しやがるっ!!それに俺はお前なんて大っ嫌いだ!!この性悪女っ!!
てめぇみたいな女にこれ以上関わってたまるか馬鹿野郎っ!!』
ついに紅蓮は切れた。
頭に血がのぼっていたせいで他にどんなことを言ったか覚えていないが・・・多分相当な暴言を吐いたのだろうと思う。
自分の言葉で、徐々に柳宿の表情が沈んでいったからだ。
勢いで逃げれたのはいいが、面倒なことに今度はどこへも行けなくなった。
美朱の側に行こうにも絶対柳宿がいそうだし・・・あんなひどいことを言ってしまったんだ、今更会えない。
困り果てた挙句、星宿の元へと来たのだ。
「そうか・・・・やはり上手くいっていないのか・・」
「・・・早ぇとこ何とか出来ねぇかな・・・俺、これ以上あいつといたらもっとひでぇこと言い出すかもしれねぇし・・。
どんな女でも、涙見んのは嫌だからな・・・」
「こんなところにおりましたの、紅蓮様」
後ろから聞こえてきた声に固まった。
「美朱や鬼宿のところにいないはずですわ、随分探しましたのよ」
「え、いや、あの・・・」
政務室に入ってきたのはやはり柳宿だ。
だが・・・さっきあんな雰囲気になってしまったこともあって・・・紅蓮は目を合わせられなかった。
怒ってんのか・・・・?
そう問いたげな視線に柳宿は気付いたらしい。
「別に、怒ってなんかいませんわ。さっきのことは水の流して・・・さぁ、私の部屋に参りましょう。
今宵も十分にお持て成ししてさしあげますわ」
「待て、柳宿」
紅蓮の手を引いて室を出ようとする柳宿を止めたのは星宿だ。
「・・・・何ですの星宿様?」
「そなた・・・あの娘がどのような存在か分かっているのか?あれは・・・」
「朱雀の巫女。陛下が昔から恋焦がれていた娘でしょう?」
その一言に、紅蓮は眉間にシワを寄せた。
「・・・おい、星宿・・!初耳だぞ、てめぇも美朱狙ってんのかあぁ!?」
「い、いや・・・そう頭に血をのぼらすでない!」
「うっせー!手出したらただじゃおかねーぞ!!」
「言いたいことはもう終わりのようですわね。さ、行きましょ紅蓮様」
「あ、おい!」
ぐい、と手を引かれて。
星宿に言いたいことが色々あったが・・・今は付いて行くしかなかった。
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