「・・・すまなかった、別に騙すつもりは無かったのだ。そなた達がどのような人物か確かめたくてな」

宮殿の廊下を渡り・・案内されたのは皇帝の室。上段にある玉座に座っているのは美形な皇帝。
下段・・床の方では鬼宿が跪き、美朱は正座している。
ただ一人、紅蓮だけは皇帝の前にも関わらずあぐらをかいて不機嫌そうな表情をしていた。

「よく言うよ・・・・人の妹見知らぬ男と一緒に牢屋に閉じ込めやがって・・・」
「こっ、こら!皇帝に何と無礼な!!」

家臣の一人が声を荒げて叱咤するが、そんな注意を紅蓮が聞き入れるはずも無く。

「黙れジジィ!嫁入り前の妹に何かあったらどうしてくれる!まぁ嫁にはやらんがな!」

この時鬼宿は殺気を感じたという・・・。

「もう、お兄ちゃんってば!皇帝さんがせっかくお話してくれるんだから聞こうよ!」
「うん!」

どんがらがっしゃ!
家臣達がその変わりように見事なズッコケを披露した。恐るべしシスコン・・・。

「その件については謝ろう・・私もそなたらを初めて目にした時は驚いたが、少なくとも家臣達が申すような妖魔の類や敵ではない」
「あのー・・・じゃあ無事帰してくれるんですか?」
「・・・勿論、殺したりはせぬ」

良かったー、と三人がほっと息をついた。

「ただし頼みがあるのだ。この国を守ってくれぬか・・「朱雀の巫女」・・そして「神和」よ」
「「へっ?」」

皇帝の言葉の意味が分からず、美朱と紅蓮は二人してキョロキョロする。

「そなたらのことだ、美朱・・・・そして紅蓮。我が国には伝説がある」


"国が乱れ滅びんとする丁度その頃、異世界より「朱雀」神の力を得るため朱の兄妹が現れる。
「朱雀」神の力を手に入れた兄妹はその力を持って国を導いてくれるであろう・・・"


「・・・とな。そしてその「朱雀の巫女」と「神和」と呼ばれる者達はついに現れた。今こうして私の目の前にいる。あの赤い光が朱雀の者の証明だ」
「「・・・ち・・・・・」」

あまりにも、信じられない話。

「違いますっ!」
「違うっ!!」

兄妹の声が重なった。

「あたしそんなんじゃありません!!だってあたしただの中学生で灰色の受験生でここにだって何かの間違いで入っちゃって・・」
「そうだそうだ!!俺だって、灰色っつーかドス黒いただの就職難野郎で・・・・」
「・・そなたらは何か望みを持っておるはずだ。それを叶える為「朱雀」の力を得たくて来たのだろう?」

ドクン、と心臓の鼓動が高鳴る。


"読み終えた者は主人公と同等の力を得、望みがかなふ"


・・・・あれは、四神天地書のあの一文は・・。

「読むって・・・本当にこの「四神天地書」の主人公になるってことかよ・・・?」
「じゃ・・・じゃあ「朱雀」って神様のどんな願いも叶えられる力を本当に手に入れられるの!?」

二人は目を見合わせた。

「じゃあボディコンの似合うようなイイ女になったり!!」
「一日三食大好物のオカズしか出ないとか!!」
「学校中の男の子にモテたり!!」
「大学の先公全員ぶっ飛ばせる程強くなったり!!」
「「思うが侭になるのセニョール!!」」
(何言ってんだこいつらは・・・・)

テンションが急に上がって来た兄妹にちょっと引く。

「そ・・・それに・・・どんな高校だって「受験一発合格」とかしちゃう・・とか・・」

美朱の素直な願いに、皇帝が微笑んだ。

「欲の無い娘だ。世界を手に入れたいとは思わぬのか?」
「やっ・・・・!!」


やるーーっ!!
あたし朱雀の巫女やりますっ!!
あたしはこの役を待っていたんですっ!!


「そ・・・そうか・・・」

興奮のあまり飛び上がった美朱に皇帝も少し驚いた様子。

「・・・・して、そなたは?」
「・・美朱が巫女やるってんなら・・・俺も、やるしかないだろ。その・・えーっと、何つった?」
「神和・・だ」
「そう、それ!俺もその神和ってのになってやるよ!!」

紅蓮の言葉に皇帝は真剣な顔つきになった。

「その言葉・・・待っておったぞ。ひかえろ、皆の者!この者達はやがて「朱雀」の力を手に入れる者!
我が国を守る「朱雀の巫女」・・・「神和が現れたのだ!!」

家臣、そして兵士達がざわざわとどよめく。

「大げさだなぁ・・・」
「こんなあたし達でよかったら・・・」


「ありがとうございます、朱雀の巫女様・・神和様」


ザッとその場に居合わせた者・・・鬼宿までもがかしこまって跪く。
その光景に二人はギョッとし、もう一度目を見合わせた・・・。

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