「・・・・・・」

体が・・・・温かい・・・・内側からぽかぽかしていくような・・・。

(・・・ん?)

・・・・・・・・・?
唇に、何かやわらかいものが・・・。
感覚と一緒に目覚める意識。うっすらと瞼を開くと・・・。

「気がついた?」
「・・・っ!?」

すぐ目の前に、女の顔。
ほぼゼロ距離だったので、一瞬思考が停止した。
今、どんな状況なんだと。そして意味不明な言葉を羅列する。

「よかったー、すぐ目覚めて。君、しばらく気絶してたんだよ?」
「わっ、わ・・・・わぁーったわぁーった!!とりあえず離れてくれっ!!」

ずいっと近付いて紅蓮の顔色を見ている女・・誰だって、自分の体に乗っかってる女を見たらビックリするだろう。
紅蓮は真っ赤な顔でその女からばっと離れた。

「・・・・?ここは・・・・」

澄んだ空気、綺麗に咲く花、清らかな泉。
さっき見た光景とは違う。周りの様子を見て紅蓮はぽかんとした。
ただ一つだけ分かるのは・・・ここが元の世界ではないということ。
夢から覚めたここは・・・・やっぱり現実・・?

「う・・・・・嘘だろぉ〜〜っ・・・・」

本っ当に信じたくないけれど。
あの時、図書館の本から出た赤い光に飲み込まれて・・・本の中の世界に来てしまったようだ・・・。
・・・あまりにぶっ飛んだことがこうして現実に起こって・・・紅蓮はすごいうなだれた。

「まぁまぁ、とりあえず落ち着いて」

ぽん、と肩をたたいて女が紅蓮を慰める。
そういえば・・・あの鎧男に襲われてからのことは何にも覚えてない。
あの時ついたかすり傷も・・・綺麗になくなっていた。

「・・・もしかして・・・あんた、助けてくれたのか?」
「うん」

改めて女の容姿を目にする。
白い衣を纏い、にこっと微笑む・・・その美しさにドキッとした。
蒼い髪に紅の瞳・・・白い肌が美しさをより際立てていた。
そして、何より一番目に留まるのが・・・左目を隠すように巻かれた包帯。

「あんた、怪我してんじゃねぇか!ひょっとして、俺を助けた時に・・?」
「ううん、違うよ。これは元々こういう顔」

心配してくれてありがとう、と女は笑った。

「そうか・・・ありがとうな、手当てまでしてくれて」
「ちょっと大変だったよ?どうしたら目覚めるか分からなくてさ、人工呼吸までしちゃった」
「じっ・・・!?!」

女の最後の方の言葉に紅蓮は頭の中が爆発した。

(じじじじじ・・・・人工呼吸ってこたぁ・・・つまり・・・)

人工呼吸イコール、マウス・トゥー・マウス
イコール・・・・・?


(俺、この人とキスしちまったああああぁあぁ!!!)


さっきの比にならないぐらい顔が赤くなる。
・・・・目が覚める直前の、唇に感じた・・・・あの、やわらかい感触はっ・・・!!

(だぁー!!ハジメテは好きな人って決めてたのにーーーっ!!)

・・・・シスコンのくせに意外とピュアである・・。

「?どしたの?」
「いいいいや何でも!?助けてくれてありがとうってゆーか・・・そう、人命救助!!だからこれノーカウント!!ハジメテじゃない!!」
「?」

・・・・途中から自分に言い聞かせてる感が満載なのだが・・・。

(落ち着けー、落ち着け俺ー・・・・こんなとこ美朱に見られたら・・・・)

・・・・って、美朱!?

(そうだ、美朱は!?それに、唯ちゃんも・・・・)

「もう体は大丈夫みたいだね、よかった」
「あ、あぁ・・・すまねぇ。世話になった・・悪い、俺用事思い出したんで行くわ!」
「うん、この道を真っ直ぐ下っていけば城下に出るから、今日はそこで休むといいよ」
「本っ当すまねぇ!何から何まで世話になっちまって・・・」
「いいんだよ、頑張ってね・・・カンナギさん?」
「?おう!」

美朱と唯を探さないと・・・この世界でまず初めにやらなければならないこと。
そのことに気付き立ち上がって、紅蓮は駆け出していった。



「ありがとうなー!!」



手を振って走り去る紅蓮の後ろ姿・・・女も小さく手を振る。

「・・・・ちょっと「気」与えすぎちゃったかな・・・」

あの青年に口付けたのは下心なぞ関係無く・・・仙術で癒しの気を送っていたのだ。

「あーあ・・・・しばらくはこの姿か・・・」

助けるためとはいえ・・・不覚にもこんな姿を見せてしまうとは。
・・・・元の姿を維持できるようになるまで、ここで休むしかないな。

(出来れば、もうこの姿を晒したくないもんだ)

数十分後。
泉のほとりに、白い衣の女の姿は消え・・・その場所に立っていたのは、あの狐目の僧侶だった・・・。

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