書き終えた短冊をじっと眺めユーリは溜め息をついた。文字にしてみるとなんだか虚しい願いだ。ユーリが願おうと願わなくともフレンは仕事が終わったら帰る、ただそれだけだから。


「…やっぱこれは捨てよ」


その短冊だけはぐしゃぐしゃに丸めてごみ箱の方へ投げた。
残りの短冊を綺麗に飾り付け完成した笹をぼんやり眺めている内にユーリは眠気に襲われた。


(ちょっとだけ寝るか)


起きたら夕食を作ろう。机に突っ伏せばあっという間に夢の世界に誘われた。

外の雨はいつの間にか止み、星達が顔を出し始めた。




(ユーリには悪い事をしたな…)


駅から帰宅途中、いや出張の間もフレンの頭を占めるのは可愛い恋人の事ばかりだった。

社会人の自分のせいでユーリとの約束は破ってばかりだ。今回も1週間以内に帰るつもりだったのに約束を守れなかった。ユーリに何もしてやれないどころか彼を傷つけてしまっている。

ユーリはぶっきらぼうに見えて実は他人を気遣う子だ。フレンの事を考えてか今のところあからさまに不満をぶつけてこない。それを良いことにフレンはユーリに甘えてしまっている。


(最低な大人だ…)


わかっていてもユーリの手を離す事はフレンにはできなかった。




真っ暗な自宅に帰宅する。靴が1足多い事に気づいて驚いてリビングに行けば会いたくて会いたくて堪らなかったユーリがそこに居た。小さな寝息が聞こえる。どうやら寝ているようだ。

どういうわけか上半身はフレンのYシャツ、下半身は下着という色々とツッコミたい格好をあえて無視し、起こさないよう毛布をかけてやった。

テレビの前には小さな笹があってそういえば七夕だった事を思い出した。そこには沢山の短冊が吊されていて、ユーリの願いが気になったフレンはこっそり読んでみた。しかし何枚か短冊に書かれた事を読んでフレン眉をひそめた。


「僕の事ばっかり…」


ユーリの事だから甘い物が沢山食べれるように…という願いは必ずあると思ったのに。全てフレンの事で埋め尽くされた七夕飾りを見てなんだか悲しくなった。


(ユーリはこんなに想ってくれるのに僕は何にもしてやれない…)


ふとごみ箱の側にぐしゃぐしゃになった短冊が落ちていて。何気なく拾ったフレンは目を丸くした。


『フレンが早く帰って来ますように』


「…ユーリ」


これをぐしゃぐしゃにしたユーリの気持ちを思うと胸が痛くなる。年下なのに甘える事も無くフレンのために尽くしてくれるユーリ。たまには我が儘とか文句とか言っても構わないのに。フレンが忙しいせいでユーリはいつも言いたい事も言えず…。

フレンは恋人失格だなと思いながら着替えにいった。




「ん……あれ…?」


ユーリがむっくり起きると肩には薄い毛布がかけられていた。


「目が覚めたかい?」


柔らかい声に振り返れば家主であるフレンが冷蔵庫を漁っていた。

「フレン!?帰ってきたのか!」
「うん、ただいま。さっき帰って来たんだ」
「おかえりフレン。ちょっと待っててくれ、今風呂にお湯を」
「それなら今入れているよ。ユーリが浴槽綺麗にしてくれたんだね、ありがとう。それより…」
「うわっ、しまった!夕飯の支度何にもしてねぇ」
「平気だよ、冷凍食品で。確かお好み焼きか何かあったはずだから。それよりユーリ…」
「そうだフレン、上着は?」
「上着?ああどうせだからクリーニングに出そうかなって廊下に纏めてある。それよりユーリ、あの」


目が覚めてみれば会いたかったとっくにフレンは帰って来ていて、やりたかった事は全部こなされていて。呑気に寝てた自分が腹ただしい。


「…ごめん何にもしないで勝手に寝ちまって。フレン出張帰りで疲れてるのに…」


(出迎えようと思ったのに肝心な所で寝るなんて最悪だ)


しょげるユーリに慌ててフレンが笑いかけた。


「気にしないで、ね?」
「あーマジで最悪だよな俺…何のために来たんだかわかんねぇ」
「そんな事言わないでユーリ」


フレンの暖かい手がユーリの頭を撫でる。


「最悪なのは僕の方だ。君には1週間で帰ると言ったのに」
「それは…別にフレンのせいじゃないから」
「僕のせいだ!君にいつも辛い我慢をさせてばかり…」


フレン唇を噛んでやり場のない気持ちを抑えた。


「本当はこれでもユーリを幸せにしたいって思ってるんだ…なんて言っても説得力無いね」
「そんな事無い」
「ユーリは僕よりもずっと大人だから無理して僕に付き合ってくれて…」
「そんな事ねぇよ!」


自虐的に笑うフレンの肩を思わずユーリは掴んだ。


「ユーリ、お願いがあるんだ。ユーリの本当の気持ち聞かせてよ…」
「本当の気持ち?」
「いつも苦しいとか僕への文句とか…本当は別れたいんだとか」
「なっ、別れたいって…そんなわけねぇだろ!」
「我慢しないで良いんだユーリ。嫌なら嫌でちゃんと言ってくれ」
「なんだよっ、フレンこそそんなに別れてぇのかよ!?」


どう言っても負の思考に偏るフレンの肩をユーリは思わずがくがく揺さぶった。


「君が別れたいなら…」
「ちっ…わかった。言ってやるよ俺の気持ち。ああ寂しいさ、寂しいんだよフレンが帰って来なくて!悪いか?1週間とか言っといて1週間経っても帰って来ないし連絡も寄越さないし…」
「…」
「今回に限らずいっつもいーっつも仕事ばっかりで約束簡単に破りやがって、その度できもしない約束をまた積み重ねて…いい加減頭くるんだよ本当!」
「…」
「ったく……フレンじゃなかったらとっくに別れてるぜ今頃」
「ユー…リ?」
「辛い時もあるし我慢する事も多いけど…それでも俺はフレンが好きなんだ。必死で働いてるフレンも俺の事考えてくれるフレンも全部引っくるめて好きなんだよ!」


顔を真っ赤にしながらも自分の思いをストレートに語るユーリ。ああ彼はこんな事を思っていたのか。全然知らなかったとフレンは衝撃を受けた。


「…むしろ俺の方がダメだよ。フレンより年下でガキだし、頭良くないし、かっこよく無いし…」
「違う、僕はユーリはユーリだから好きなんだ」
「…それとおんなじだよ馬鹿。俺もフレンがフレンだから好きなんだよ」


なんだか泣きそうになったユーリは慌てて目をごしごし擦った。


「無理して付き合ってるとか言うなよな」
「ごめん」
「…別れたいとか聞くなよな」
「…ごめん」
「ふん……お詫びにキスしたら全部許してやる」


そう言ってそっぽを向いたユーリ。フレンは許しをもらいたくて必死にユーリの頬にキスを落とした。


「許して、ユーリ…?」
「…しゃーねぇな」


わざと渋々と言った表情で溜め息をついたユーリがフレンを引き寄せるようにしてキスを送った。


「特別に許してやる」
「ありがとう」


そう言ってユーリを抱きしめれば珍しくユーリも擦り寄ってきた。


「あのさ、ユーリ」
「何?」
「たまには今日みたいに僕に思っている事をぶつけてくれないかな…?どうでも良い事でも構わない。君はそれを我が儘だと恥じるかもしれないけど、君の想いを知れて僕は嬉しいから。それに些細な事から君の願いを叶えたいんだ」
「…考えとく」


きゅっと腰に回されたユーリの腕に力が篭りフレンも抱きしめる力を強くすれば消え入るような「もう暫くこのままで…」と言うユーリの声がした。


そんな2人の様子を星達が静かに見守っていた。



星屑並の幸せでも
(この手にそっと閉じ込めたい)


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