「やっぱりユーリってなんというか…フレンに優しいよね」
「でもユーリが心配です…。いくらなんでもあんな料理を沢山食べたら具合が悪くなっちゃいます」
「大丈夫って彼が言ってるんだから信じるしかないわ」
「下手に首突っ込んだらまたとばっちりくらいそうな予感がする…」
「お熱いお2人の邪魔なんてしない方が身のためって事かね」


ただでさえフレンの料理を食べてダメージを受けているジュディス達は深入りせず2人を静観する事にした。




「よおフレン」
「ユーリ!」


フレンの部屋を訪ねれば中央に大きなテーブルが有り、先程の部屋と同じくらいのお菓子の山があった。これ全部をフレンが1人で作ったと思うと凄い。


「久しぶりだね。君達が帰ってきたとソディアから聞いて慌てて作ったんだ」
「それでお菓子交換会の事も聞いたの?」
「お菓子交換会?いや、それは初耳だ」
「じゃあなんでこんなにお菓子を…」
「それは…ちょっと言うのが恥ずかしいな」


ほんのり赤くなって躊躇うフレンなんて珍しいものを見てしまった。


「僕もバレンタインという流行に乗りたくて…」
「へぇ…お前が素直に流行に乗るとは珍しいな。いつもなら『流行に乗るのは主体性が無い人間だ』なんて言いそうなのに」
「巡回してる時に話を聞いてね、これはユーリも喜びそうだと思ったからたまには流行に乗っても良いかなって考えたんだ。それにバレンタインには恋人への愛情を伝える行為も含まれているからぴったりだと思った。とにかく流行が廃る前に君に会えて本当に良かったよ」


さあ心ゆくまで食べてくれと言われて大きな箱に入れられたチョコレートの数々を差し出された。相変わらず見た目は完璧だが…味も完璧かは不安だ。

食べる覚悟はもうしてある。3、2、1と心の中でカウントダウンをして口に入れた。


(うっ…今回は一段と酷いな)


見た目は綺麗なチョコレートだが中身はなぜかカレーの味ばかりする。かなり辛くて甘さは控えめだ。

しかしフレンの期待の眼差しに応えるよう気丈にユーリはふるまった。


「おっ、随分独創的な味だな」
「レシピをちょっと僕なりにアレンジしたんだ。味薄くない?もっと隠し味のカレー粉入れた方が良かったかな…」


カレーの隠し味にチョコレートは入れても逆は普通無いだろうと冷静にユーリは思った。もはや隠れていない。


「いや十分だぜ」
「そうか。よかった」


ユーリが食べる姿を幸せそうに見つめるフレンのせいで手はとめられず結局完食してしまった。

甘いはずのチョコレートを食べたのに舌がぴりぴりして頭痛がするのはいったいどういう事だ。後からだんだん辛くなってきて思わず机に突っ伏したユーリにフレンはびっくりして近寄ってきた。


「ユーリ!?」
「わりー…最近寝不足で限界きたっぽい」


本当はチョコレートに大量に入っていた香辛料のせいで頭痛がするのだがフレンには秘密だ。こんな料理だって忙しいフレンが合間を縫って作ってくれたのはよくわかっている。


(…愛情だけはたっぷり入ってるからなこいつの料理)


だからどんなにまずくても完食できるのだ。

まあしかし今回はなかなか強敵だったのでユーリはささやかなお返しをする事を決めた。


「少し休ませてくれ…」
「平気?辛いなら誰か医者を呼んでくるよ」
「ただの寝不足だって……ちょっといいか」
「わっ」
「膝貸せよ」
「え、いいけど…あんまり寝心地良くないよ」
「そうか?そうでもないさ」


ぐいっとフレンの足を引っ張りこちらに向けて、そこに頭を乗せて横になった。チョコレートのお返しに遠慮無く体重をかけてやる。

フレンの足は確かに余分な脂肪があまり無いが、ユーリにとってはそれなりに寝心地の良い枕だった。

見上げれば心配そうなフレンの顔が有り、こちらが安心しろと笑えば漸く優しく笑い返してくれた。フレンの少し高い体温がこちらに伝わってくる。


(フレンとこんなにゆっくりするの、久々かもな…)


なかなか会う事もできず、会ったら会ったで空白の時を埋めるように互いを求める。それも嫌いじゃないがたまには穏やかな時を過ごすのも悪くないようだ。

いつの間にかフレンにゆっくり髪を撫でられていてそれが心地良かった。

ふざけた気持ちが半分でフレンの膝を借りていたが、暫くそうしていると本当に体調の悪さもどこかに消えてしまったみたいだ。これであの悪夢のようなチョコレートもちゃらにしてやるかとユーリは思った。


「…口開けろフレン」
「え?んぐっ」
「これ俺からのチョコレートな。ちょっと前に自分のためだけに作って欲しいって言っただろ?だからこれはフレンのためだけに作ったんだ」
「お、美味しい…やっぱりユーリの料理は流石だ」
「愛情たっぷりだからな」
「それは嬉しいな。もう一口くれる?」
「甘えん坊だなぁフレンさんは」
「いいだろ、たまには」
「たまにならな。お前いつもだろ」
「そう?それは僕を甘やかすユーリのせいだ」
「はっ、なんだそれ」


くすくす笑って互いの頬や髪を撫でる2人はもはや別世界へ飛んでいた。リタ辺りが見たらうざいと言いそうな程甘ったるい桃色の世界だ。


「ほら、あーん」
「あーん……ふふ、ユーリに食べさせてもらうと一段と美味しいよ」
「んなわけないだろ」
「あるって」
「じゃあ俺にも食べさせろよ」
「いいよ。あーん」
「…あ、確かにそうかもな」


確かに酷いフレンのお菓子も少しはマシに感じる。フレンとユーリはお菓子を与え合い何時しか夢中になって互いの指まで舐めとるようになった。


「口元にチョコついてるよ」
「何処?…これで取れたか?」
「まだついてる」


なかなかチョコレートが取れないユーリに代わってフレンが顔を近づけユーリの口元をぺろりと舐めた。


「取れたよ」
「しれっと舐めんな。くすぐってぇよ」
「あ、足りなかった?」


じゃあ、とフレンは今度はユーリの上半身を起こして深いキスをした。


「ふあ…ぁっ……」
「ん……いつもより甘いね」
「っ…当たり前だろ……フレン、もっと…」


縺れ合うようにソファーに転がった恋人達のバレンタインはまだまだ終わらないようだ。


毒入り林檎を一口
(それでも愛が勝つのです)

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