バレンタイン。この日は今も昔もちょっとした騒ぎと争いとが勃発する。しかしイベントは、その意味をすっかり変えてしまった。
相手の顔を思い浮かべながら残りを数える。ユキ達とアマネ達は終わった。残りは部活のメンバーのみ。深呼吸して目的地へと向かう。一歩、また一歩。
窓からそっと様子をうかがうと、何やら楽しげに談話中。輪の中心にアオイ先輩を見つけ、羨ましさが沸き起こる。落ち着いて。
息を整え、銃を握る手に力を込めた。
「アオイ先輩、強すぎです……」
勝者への褒美であるチョコをかじりながら先輩は笑う。ほのかに自信が漂う、いたわりの笑み。
「私も先輩と同じ班になりたかった!」
「私の班は倍率高いからね。来年は頑張って」
昔むかしのチョコが豊富にあったころ、VRMMORPGはまだ見ぬ夢、幻だった。今では逆にチョコが希少で、年に一度、RPG優勝者に与えられる名誉となっている。
「来年こそは球技でありますように!」
「十年前にバレーがあったから、まだ当分ないと思うよ。それよりもレースがいいな、カーチェイス」
「あれは……酔うから苦手です」
あら残念。最後のひとかけらを口に放り、先輩は伸びをする。
「それじゃ、部活行こうか。今日の反省と来年の競技内容予想、練習もしなきゃね」
「はい!」
来年こそは、先輩と一緒に優勝を。心のなかで誓いを立て、先輩の背中を追った。
【end】
御剣ひかるさんへ