――それは夏が過ぎ去った、夕暮れ
「あ〜ぁ、すっかり秋めいちゃって」
不満気に言い、遥香(はるか)はよいっと跳ぶ。そうしてシーソーの上に立ち、両腕を真横に伸ばした。軽業士になりきっているのか、わざとらしく左右に体を揺らし少しずつ前へ――シーソーの中央へ進む。
俺はため息をついてカバンを2つ――自分のものと、持たされた遥香のもの――地面に置いた。
「落ちても知らねーぞ」
「そんなヘマはしませんよーっだ」
色付いた木の葉が降る公園には、俺と遥香の2人だけ。風は徐々に冷たさをまとって俺に触れる。
風に首をすくませ、シーソーに近付く。ゆっくりとシーソーを行き来する遥香は、見ていてとても危なっかしい。手を出したら文句を言うのだろうな。
「よ……よっと………」
慣れてきたのか、行き来する速度が速くなる。片手をポケットに突っ込み、いつもは低い位置にある遥香の顔を見上げる。得意そうな笑み。
「なぁ、遥香。そろそろ――」
帰ろーぜ。そう、言いかけた時。
「わ……っ、きゃっ」
かわいく悲鳴を上げながら、遥香が降ってきた。
咄嗟に受け止めて顔をのぞき込むと、青い顔と少し荒い息。大きな目は更に見開かれ、わずかに潤んでいる。
だから、言ったのに。
そっと口付けをして、耳元で一言ささやいた。
――それは初めて、想いを告げた時
【end】
◆お題:はじめての……