落ちこぼれ魔女

 あるところに、落ちこぼれの魔女がいました。落ちこぼれすぎて、今にも魔女の資格を剥奪されそうな魔女がいました。そう、魔女だって資格があるのです。
 資格を剥奪されるのだけはいやです。でも、どうすればいいでしょう。魔法薬作りは毎回分量を間違え、呪いは毎回作用せず、黒猫もカラスもヘビも皆落ちこぼれ魔女を嫌っています。
 そんな落ちこぼれ魔女は、しょんぼりと町を歩いていました。すると、小鳥とネズミがわんさか来て魔女にまとわりつきました。迷惑です。通行人が遠巻きにこちらをチラ見しています。恥ずかしいです。
――魔女さん魔女さん、お願いがあります
――どうか彼女を幸せにしてあげてくださいっ
――僕達はどうなってもいいので
 魔女といったら大鍋でグツグツ怪しげな薬を煮込み、人を醜いカエルにし、また呪いをかける存在です。人助けなんて、魔女らしくありません。ですが、動物達は強引に、魔女をあるお屋敷に連れて行きました。
 そこには、男性が1人と女性が1人、少女が3人暮らしていました。動物達が幸せになって欲しいのは、その内の少女1人だそうです。虐げられている、心優しい少女だそうです。
 お屋敷内は何だか慌ただしいです。
――今夜、お城で舞踏会があるのです
――彼女以外、みんな舞踏会に行くのです
 なるほど、わかりました。
――彼女だけ、置いてきぼりです
――酷いです
――優しい彼女を、幸せにしてください
 幸せになんて、難しいです。人それぞれ幸せは違いますし。
「私も、舞踏会に行きたいな」
 4人を見送り、少女がつぶやきました。
「舞踏会に行きたいの?」
 思わず話しかけてしまいました。振り向いた少女の目は、満月みたいにまん丸です。
「あなたは……?」
「行きたいなら、キュウリとネコを用意して」
 キュウリとネコでよかったかしら。少し不安です。用意されたキュウリとネコ、そして少女に魔法をかけます。成功することを祈って。
 どうにか成功しました。青臭い馬車とネコ目の従者、綺麗なドレスに変わりました。よかった。
「あの……すみません、靴が」
 慌てて見ると、靴は変わってません。困りました。どうしましょう。
「え、あ、えっと、………」
 どうしましょう、どうしましょう、どうしましょう。そもそも、魔法が成功したことがおかしいのですが。
 もう一度して、成功する自信がありません。
 パニックに陥っていると、聞き覚えのある声が響きました。
「あら、あなた。何しているの?」
 優等生の魔女さんです。思わずすがりつきます。
「靴……靴! 靴が、靴……」
 うわごとのように靴、靴と繰り返します。
「靴ー? んっと、あ、これとかどう? 呪物に使えそうだから拾ったんだけど。小さいか」
 優等生さんが取り出したのは、ガラスで出来た靴でした。試しに少女に履かせてみます。誂えたようにピッタリです。
「よかった……」
 安堵の息を吐きます。
「ねえ、あなた。あのキュウリとネコとボロ服、あなたがしたの?」
 馬車、従者、ドレスを指して優等生さんが聞きます。さすが優等生さん。一目で正体を見破りました。
「うん」
「ふーん、そう。……この魔法、日付が変わったら消えるわよ」
「えっ?」
「えっ?」
 少女と落ちこぼれ魔女の声が重なります。
「12時の鐘が鳴り終えたら、魔法が解けてしまうわよ。その様子だと、お城の舞踏会に行くのかしら? なるべく早く行って、出来るだけ長く楽しみなさい」
「はい。お二方、ありがとうございます!」
 少女は馬車に乗って、お城へ向かいました。
「それにしても……」
 優等生さんがボソッとつぶやきます。
「あなたが“白き魔女”だったなんてね」
「え……?」
「どうりで、呪いから何から、片っ端からおもしろいくらいに失敗するわけだわ」
「あの……白き魔女って?」
 優等生さんが、イタズラっ子の笑みを浮かべます。
「“黒き魔女”――通常の魔女と正反対の存在よ」
 落ちこぼれ魔女はポカンと優等生魔女を見上げていました。


【end】

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