チョコレートかっさらい要員

 用意したチョコが一つ足りなかったら、それは彼らの仕業かもしれない。

 夢と現の狭間、冬の森に三人は集まった。いつも一緒に行動するのだが、この日だけは先程まで別々だったのだ。
「せーの!」
 子ども特有の軽やかな掛け声に合わせ、戦利品を見せ合いっこする。青いリボンがあしらわれた小さな紙袋。モールで縛った半透明の袋。シックな赤い小箱。見た目も中身も違うが、共通点が一つだけ。
「おわ、その箱何だ? すっげー気になる」
「リリの紙袋も気になる」
「チョコでコーティングしたクッキー!」
「それは見りゃわかるって」
 きゃわきゃわ騒ぐ三匹を見下ろし、キツネは小さく息を吐く。
「シマエナガ、また盗ってきたの?」
「別にいーだろ」
「いっぱいあるもん」
「おいしい」
 この三匹にバレンタインを教えたのは誰だっただろうか。ネコか、いやツバメか。
「誰かのことを想いながら、用意して渡すから意味があるんだよ。それ、シマエナガへのプレゼント?」
 三匹が目を合わす。
「違う、けど……」
「作り方知らない」
「道具とかねぇしさ」
 言われてみれば。夢に近いこの森に、人間のものがあるはずもない。
「それに……おいしい、し」
 一斉に見上げてくる三対の目には、ありありと懇願が浮かんでいる。潤んで瞬く瞳は、何よりも強い。
「私のところは、ずっと秋だから……バレンタインなんて知らない」
 視線を逸らしてつぶやくと、目の前で歓声があがった。
「ホワイトデーにお返しするなら、だけど」
「えー」
「何でだよー」
「やだ」
 途端巻き起こるブーイングに、目を軽く細め、三匹に向ける。
「人間の常識。人間のイベントにあやかるんだから、それくらいはしなさい」
 渋々ながらもうなずくのを確認し、頬を緩めた。

 用意したチョコが一つ足りなかったら、それはシマエナガの仕業かもしれない。そんな時は緩やかに微笑み、一ヶ月後のお返しを楽しみに待つといい。彼らなりの精一杯が必ず届くから。


【end】

比恋乃さんへ

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