仕事の合間に

 空からはらはらと降る雪に目を細める。毎年こんな夜中に、それも冬に働かなくてはならないなんて。もちろんやりがいはあるし、たまに差し入れもある。年に一度頑張ればあとは生活に困らない待遇であり、気に入っている。しかし、こうして待機中はやはり思ってしまう。こんな寒い中、一晩中駆けずり回るなんて、と。
「毎度、難儀だねえ」
 声の主を見返し、肩をすくめてみせる。
「でもまあ、これが仕事なので」
「そうかい」
「あなたこそ、お仕事大変そうで」
 話を振ると、相手は深々と息を吐いた。
「昔は大変だと思っていたんだがねえ。体が熱いわ、黒く汚れるわで。しかしねえ、やっぱりやりがいはあったからねえ」
 沈んだ声に、遅まきながら彼が仕事をしていないことに気付く。この季節は絶やすことなく黒々とした煙を出していたのに。
「ただ存在するだけが、こうも辛いとは……ね」
「……ここも電気ストーブに変えたんですか」
「みたいだねえ。今は隠居生活だよ」
 冷たい煙突に身を寄せる。そろそろ帰ってくるだろうが、わずかな時間でも。
 しばらく無言で空を仰ぎ見ていると、視界の端に赤色が映った。
「トナカイさん、お待たせ。食べるかい?」
 プレゼントを置きにいった先でもらったのだろう、リボンを添えた箱を見せながらサンタクロースが聞いてきた。
「中身は何ですか」
「まだ見てないんだ」
 包装を破り、ふたをあけるとフルーツケーキが鎮座していた。これはまた、なんともおいしそうな。
「いただきます」
「では半分ずつしようか」
 ケーキを味わいながら町を眺める。昔はどの家も煙を吐き出していたというのに。
「僕もそのうち隠居するのだろうか」
「その時は私も隠居だな」
 思わずもれたつぶやきへの返事にうつむいた。
「……年に一度のためだけに、残り一年養わなければならないのにですか?」
「一人で夜を行くのと、相棒がいるのとはかなり違うのだよ」
 うつむいたまま目を閉じると、温もりが頭をなでてきた。ゆっくりまぶたをあげて盗み見る。片手に空の手袋を握っているのが見え、目を細めた。
「次、行こうか」
「……はい」
 煙突に別れを告げ、星空へ飛び込んだ。


【end】

◆お題:煙突、トナカイ、ケーキ、赤色
お題バトル(2013/12/21)にて

感想  よろしければ。励みになります。

お名前(空欄可):
画像認識(必須・半角):
コメント: 

読了ありがとうございました。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -