日時はTwitter掲載時のもの
6つの花のお話
【1.安らぎのカモミール】
この前電話してきた女性が店に現れた。こちらに軽く会釈してテーブルについた彼女は、そわそわと店内を見渡す。あいにく、彼女が本日最初のお客だった。
几帳面な人、という印象は間違っていなかったようだ。時計の針が示すは14時50分。カップに紅茶を注ぎ、テーブルへ運ぶ。
「カモミールティーです」
女性が目を丸くし、こちらを見上げてくる。
「あの、でも、私……」
「カモミール、苦手ですか?」
否との答えに微笑んで続ける。
「私からのサービスです。どうぞ、ごゆっくり」
納得したのか、笑みを浮かべて礼を言う彼女を好ましく思いながらカウンターに戻り、ドアに目を向ける。
次の客はどの様な人だろうか。
【2.舞い降るサクラ】
妊婦が乗ってきた。かなり大きなお腹から、そろそろ産まれるのだろうか、なんてつらつら考えてみる。
バスが発車しても立ったままの妊婦に、おや、と後ろを確認。駄目だ、席が全部埋まっている。前方に視線を戻す。優先席には窓に寄りかかり眠る人と、イヤホンをして携帯をいじる少年が。
席、代わればいいのに。
目を細めて少年を見つめる。気付いていないのだろうか、それとも。
「あの」
突然響いた声に振り返る。女性が立ち上がりながら妊婦さんに話し掛けていた。
「次で降りるので、どうぞ」
どくりと胸が鳴り、息が詰まる。俺も、次で。
目的のバス停で降りる。桜並木を歩く女性の背に、唇を噛んだ。
【3.優しく鳴るカンパニュラ】
きょろきょろと辺りを見回しながら、ポシェットのチャックを開ける。取り出したのはプリントアウトした地図。そろそろ目的地であるカフェに近いと思うのだが。
「桜並木があって、ここを――」
ぶつぶつとつぶやきながら地図の上で指を滑らす。と、誰かに肩をつつかれる。顔をあげると、青年が何かを差し出してきた。
「落としましたよ」
見覚えのあるカンパニュラのしおりに思わず声をあげる。地図を取る時に、一緒に出てしまったのだろうか。
「ありがとうございます!」
「あ、いえ……」
はにかむ様子がかわいく見えて、年上と思われる彼を、くすり、笑ってしまった。
【4.楽しみなシロツメクサ】
『オフ会、しませんか?』
案外近いところに住んでいるらしい、ということがお互いにわかり、そんな話題がのぼった。一緒にお茶でも飲みながら語るのも、ひと味違う楽しさが潜んでいそうだ。
どこでするか、いつがいいか。話し合いながら考える脳裏に、一つのカフェが浮かんだ。
『「カモミール」ってカフェはいかがですか』
『え、駅前のカフェ「カモミール」ですか?』
カミツレさんに肯定すると残りの人も反応する。日時を決めてカフェに電話で確かめると開いているとのこと。クローバーが踊る表紙を開き、鼻歌を歌いながら『オフ会 15時 カフェ「カモミール」』と手帳に書き込んだ。
【5.くるりめぐるクレマチス】
優しい、という印象がついた青年に一歩近寄る。
「道を教えて欲しいのですが」
手元の地図を見せて指差す。「このカモミールってカフェへの行き方を知りたくて」
「そこ、これから俺も行こうと思ってて」
「本当ですか、奇遇ですね!」
そこでお互いに口を閉じる。
「もしかして――」
「――オフ会、ですか?」
目を見開き、青年はうなずいた。
ハンドルネームを名乗り合い、互いにまじまじと相手を見る。そうか、この人が。
「それじゃあ、行きましょうか」
「そう、ですね」
カラカラカラ。目の端に店先で風車が回るのが映った。
【6.花開くアマリリス】
カラン。ドアを開けると鐘が鳴った。先程一緒になった少女を通し、カフェに入る。
店内に人影が2つ。店員の男性と紅茶を飲む女性。テーブルに歩み寄ると女性が目線をあげた。この人、バスで妊婦に席を譲った人だ。
「こんにちは」
やわらかな微笑みに、ぎこちなく笑みを返して座る。空席は一つ、まだ来てないようだ。
「いちごのシフォンケーキでございます。お好みで生クリームをのせてお召し上がりください」
運ばれてきた皿とカップは4つ。
「もう一人はまだ――」
女性の言葉を笑顔で遮った男性は、お盆を隣のテーブルに置き席に着いた。
「もう一人は僕、カミツレです」
テーブルに飾られた花が揺れた。
【end】
[1]14:55:59-14:56:19
[2]14:59:57-15:01:00
[3]15:13:14-15:13:47
[4]15:25:13-15:25:50
[5]15:32:13-15:38:12
[6]15:33:24-
2013/04/28 15:39:08(日)
佐保姫
ふんわりと舞う。
白に少しだけピンクを足した、指先サイズの花びらが降る。積もった芝には絨毯が。
――さぁさぁお退き、佐保姫のお通りだ――
2013/04/05 19:50:51(金)
夜
夜という文字を使わずに夜が来たを文学的に表現してみろ
ちょいと昼寝をしようと思ったのだが、どうやら眠りすぎたらしい。既に暗闇と化した部屋で目覚め、やらかした、とため息をつく。
(21:02:16-)
2013/04/04 21:09:38(木)
魔女と弟子
会話文のみ
「何度考えても答えが出ないので問います。なぜ闇を与えたのですか。例えひとしずくでも、師匠の闇ならばかなりの確率で魔女の素質を持つ子が生まれるとわかっていたはずです。師匠は『常夜の真闇』とまで称された魔女で、その闇の効力は桁外れ。なのになぜ、母に闇を?」
「私は永く生きた。永く闇を消費した。私にはもう、その呼び名は重荷でしかない。私の闇はお前を守る力もない程に薄まっているのだよ。子もすくえぬ程に薄まっているのだよ。あの時、お前の母親がここを訪れた時、私も子が欲しくなった。――私も一人の女だったわけだ。
血の繋がりはないが、おのれの闇の一部を使って生まれる子。それでも良いから欲しいと、思ってしまった。愚かしい答えだろう。」
(05:57:40-06:07:17-)
2013/03/31 06:10:37(日)
魔女
台詞のみ
子が出来ない、か。そうだね、確かに貴女の闇は、子をすくうには少ない。いや、薄い。方法? ないとは言わないが――これこれ、全てを聴いて、考えて、それからその先の言葉を言いなさい。
ひとしずく、私の闇を貴女に落とす。それだけで十分だ。しかしね、私は知っての通り魔女だ。魔女の闇が混ざれば、魔女の素質を持つ子が生まれる可能性が高まる。子を手放す日がくるやもしれぬ、ということだ。産んだその瞬間かもしれないし、数年後かもしれない。あるいは、別れは来ないかもしれない。
(13:57:58-)
2013/03/30 14:03:32(土)
晃
#キャラ試運転
「俺が好きな人は、小さい頃から変わっていない。恋という言葉も知らない幼い時から、きっと、俺は彼女が好きなんだ。自覚したのはその数年後だけど」
2013/03/20 01:13:32(水)
世界[台詞のみ]
台詞のみ
この世界が狂ったのはアンタのせい? 笑わせんな。
この世界はな、最初っから狂ってたんだよ。それが気付かれる前に滅亡の危機が訪れただけで別に、アンタが救世主紛いの行為をしたからじゃない。
他からポッと現れただけのアンタに変えられるほどお手軽じゃないんだよ。アタシが作ったここは。
自惚れんな。
2013/03/09 00:31:10(土)
ぽつり[未完]
#情景描写のみで悲しみを表現する
夕日が一筋、暗い部屋に忍び込む。絨毯の上に捨て置かれたサッカーボールは薄汚れ、ホコリにまみれていた。
2013/03/05 23:58:39(火)
背中
#情景描写のみで悲しみを表現する
「そう」
長々と続く言葉をその一言で断ち切り、彼女は背を向けた。ずんずん海に沈む太陽を見つめる背中は光に溶け消えそうで、しかし黒くしっかりとそこに立っていた。
2013/03/05 23:45:10(火)
それでも
「でもそれ、命を削ってるよね?」
あ然と相手を見つめた。
指摘を受けるまで考えもしなかったが、なるほど確かに、そうかもしれない。体を酷使して、未来で何の役にも立ちそうにないことに夢中になって。
しかし、ニコリと笑い返す。何も残らずとも、今一番したいのはこれなのだ。
「うん、そうだね」
2013/03/05 22:31:08(火)
見たいもの[台詞のみ]
台詞のみ
ボクが見たいのは終わりじゃないんだ。ボクが見たいのは始まりなんだ。でも、始まるためには終わらなきゃいけないでしょ? 終わった後に、また新しく始まるんだから。
だからね、ボクが終わりを望んで破壊してるなんて、間違っても言わないで。ボクは純粋に、ただ始まりってものを見たいだけなんだから。
2013/03/01 00:42:24(金)
ここ、から?
#指定されたお題で140字SS書く
視線をあげると澄んだ瞳と諸にぶつかった。慌てて逸らすが頬に熱がのぼる。
あぁもう本当、どうしよう。
誘われるままカフェに来たものの、彼は何を言うでもなくただこちらを見つめていた。
頼んだココアは既に冷え、カップ越しに何やら急かしてくる。それに抗議するつもりで一気に飲み干し、口を開いた。
◆頂いたお題:見
2013/02/27 01:18:06(水)
水平線[会話文のみ]
#指定されたお題で140字SS書く
「私、ちゃんとした水平線見たことないの。視界の端から端まで続いてるやつ。だからね、地球が本当に丸いかわからないの。あ、でも、あの現象は目の錯覚だっけ。うーん。ねぇ、地球って本当に丸いの?」
「君が丸いと思うなら、丸いんじゃない?」
「投げやりね。理論は探せばゴロゴロ転がってるのに」
◆頂いたお題:水平線
2013/02/20 00:42:28(水)
初お好み焼き
#指定されたお題で140字SS書く
ホットプレートの上で鰹節が踊る様に彼は眉を寄せる。
「本当に死んでるの? 生きてないの?」
「うん」
「なら何でこうもふよふよしてるの?」
「さあ」
眉間にシワが刻まれるのを見て、まぁまぁと切り分けたお好み焼きをよそう。
「美味しいから食べてご覧よ」
にらみつつも従った直後、彼は相好を崩した。
◆頂いたお題:ホットプレート
2013/02/20 00:20:52(水)
君の歌声
君の声をもう一度聴きたい。その声で紡がれる歌を。
光をまとうその歌は、僕たちに希望を与えていた。だから、僕たちは君を希望の歌い手なんて呼んでたんだ。
――もう一度、君に会いたいよ。
2013/02/19 22:03:05(火)
真夜中
物書き交流チャット
空から降る月明かりに手を浸す。シャラリと鳴って手のひらに溜まる光に目を細めた。
今宵は満月、採集には丁度良いが。ちらり、と背後を見やる。
「何の用だい?」
「あ、気付いてました?」
草むらから現れた姿にため息をつく。
「気が散るから来るなと言わなかったかい?」
「でも、見ないと学べません」
思わず口をつぐむ。もう一度ゆっくり息を吐き出し、彼に背を向けた。
「なら、邪魔はするなよ」
◆頂いたお題:真夜中
(2013/02/17開催文字書き交流チャットにて)
(23:35:15-)
2013/02/18 23:35:51(月)
放課後
物書き交流チャット
掃除道具入れの戸を開くと鈍い音が響き渡った。自分で立てたにも関わらず飛び上がってしまい、息を整える。
箒を手に取り、空っぽの教室を見回す。今校内にいるもの好きな生徒は自分くらいだろう。昼までの試験が終わるなり帰宅し、明日の勉強に取り掛かる者がほとんど。
肩を竦めて苦笑すると、そっと掃除を始めた。
◆頂いたお題:試験
(2013/02/17開催文字書き交流チャットにて)
(23:30:43-)
2013/02/18 23:31:25(月)
子守歌
母の歌が好きでした。
暖かくって、優しくって、安心感を引き出す声が好きでした。夜に電気を消して、一緒に布団へ潜り込み、そうして歌われる子守歌が。
今、私の腕の中には、小さな娘がいます。頭をなでて微笑みかけると、娘が請うてきました。幼き日々を思い出しながら、願われるままに口を開きました。
2013/02/15 23:37:20(金)
期待[台詞のみ]
台詞のみ
「……ふむ。どうやら君は、僕に何かを期待していたようだね。それがどのようなものかはわからないが、君を失望させたというのは事実。失望させたことに関しては謝ろう。しかし、君、勝手に僕に期待して、勝手に僕に失望するのは迷惑であることは心に刻み込んでいてくれるね」
2013/01/30 13:54:59(水)
図書館にて[未完]
ふと顔をあげると彼女の姿がない。しまった、本の世界に入り込みすぎた。立ち上がり、しんと静かな館内を歩き回る。
図書館デートと言えば聞こえがいいが、実際がこれでは紛うことなき失敗だ。焦る気持ちが足を早めるが、どこにも姿がない。
唇を噛んで携帯を手に取る。一旦外に出て、電話しよう。そう思い出口へ向かいかけたところで、服の肘のあたりがつかまれた。
「何かあったの?」
振り返れば、探していた人がそこに。息を吐き、微笑んで首を振る。
「いや。……ごめん、夢中になってた」
彼女はちょっと首を傾げ、「あぁ」と笑う。
「私の方こそ、何も言わずに離れてごめんね。調べものしに行ってて」
「いいや。何調べてたの?」
(00:24:51-00:25:30-)
2013/01/30 00:25:54(水)