deliverance 3 ばしゃりと、大量の冷水を身に浴びて、和平は目を覚ました。これで何度目だろう。殴られ、蹴られて熱を持った体に、氷を含んだ水は容赦なく突き刺さる。 上半身の服は剥ぎ取られ、散々痛めつけられたせいでせっかく固めた髪は乱れてしまっていた。両手をまとめて鉄の鎖で持ちあげられ、つま先はかろうじて床に届かない。 体重を全て引き受けて支える肩が限界を訴える。このままでは外れてしまいそうだ。 突然の冷水に目を上げれば、間髪いれずに鳩尾に重い拳が入った。 「ぐぁ…っ」 「誰が寝ていいといった」 せき込んで震える喉を無理やり掴んで揺すられ、肩にびりびりと痛みが走る。 痛みと咳で涙が零れ落ちた。 「素直に情報を渡せ」 「けほっ、ごほ…っは……ほかの、奴に…聞けば、いいだろ?」 途切れ途切れ答えてやれば、尋問官は舌打ちをして和平の体を突き飛ばす。 「があぁっ!!」 体が大きく揺れ、肩に激痛が走った。再び遠のく意識を、どうにかしてつなぎとめる。これ以上冷水を浴びるのは御免こうむりたい。 この尋問官は報告を受け取る度に機嫌を悪くしている。どうやら仲間達はまだ捕まっていないらしい。 だとしたらまだ希望はある。スネークはもう和平が捕えられたことを知っているだろう。ならばきっと助けに来てくれるという期待は、ビッグボスに対する副司令の、スネークに対する恋人としての確信という名の信頼だ。 ならばそれまで耐えて見せよう。 次なる攻撃に備えて歯を食いしばる。尋問官が手をあげると、傍にいた兵士が拳を振りかぶった。 が、予想した痛みは来なかった。 「カズ、待たせたな」 鈍い音がしたかと思うと、目の前にいた敵兵達は皆床に沈んでいた。 何が起こったかも分からずに、阿呆みたいに口をあけたまま固まってしまった和平を、スネークは強く抱きしめた。 「いっ!?いだ、いだだだだだっ!痛い痛い痛い離せスネーク!!!」 だがスネークは、腕の力を緩めようとはしない。一応肩に負担がかからないようにはしているらしいが、生傷だらけの体に熱い抱擁は辛い。 「…馬鹿野郎、無茶しやがって…っ」 「…すまん」 鈍く痛みを走らせる身体を抱く腕が、小さく震えているのに気付く。他に方法がなかったとはいえ、やはり、無茶をしすぎたかもしれない。 スネークは回していた腕を和平の頭に伸ばすと、顔を引き寄せ、その唇に齧りついた。 そのまま荒々しく口内を貪る。口を切っていた和平は涙ぐみながら、それでも逃げようとはせずに、逆にスネークを求めるように舌を伸ばした。 お互いの生を確認しあうように、執拗に互いを貪りあう。 ようやく離れた唇は、白く糸を引いた。 戒めを解かれた和平は、暫くスネークの腕に抱かれたまま、痛みを逃がそうと深い呼吸を繰り返した。 ここの警備が厳しいことには変わりない。脱出するにも一苦労するだろう。 スネークの足を引っ張るわけにはいかない。痛みをこらえて上着に袖を通すと、たまらず呻き声が漏れた。 「おい、無理するな」 「も、大丈夫だっ」 幸い、足はあまり痛めつけられていない。腫れあがったあざは鈍く痛むが、耐えられない程のものでもない。 ただ、酷く嬲られた肩は殆ど上がらず、銃を持ちあげることは出来そうになかった。 「酷いあざだ。内臓が傷ついてなきゃいいが…」 「大丈夫、だから。それより…書類は?」 「ああ、手に入れた。お前のお陰だ」 「そうか、良かった」 スネークに支えられてどうにか立ち上がる、多少ふらつくものの、どうにか歩けそうだ。 否、歩かなければ、スネークの隣を、せめて、そのすぐ後ろを。 その様子を見て、スネークは溜息をついた。 どんなに痛めつけられても、負けず嫌いは健在らしい。まったく、仕方のない奴だ。 「すまん、カズ」 「へ……?」 とん、と一度、鋭く手刀を喰らわせれば和平は呆気なく落ちた。崩れ落ちる身体を受け止めてしっかりと抱き寄せる。 かなりこっぴどくやられたらしい。きれいだった白い身体は、無数の裂傷や打撲の痕で青黒くなっていた。髪はすっかり乱れてしまい、汗にぐっしょりと濡れた顔は真っ青だ。 「くそ…っ」 和平を傷つけてしまった不甲斐ない自分に腹が立ってしょうがない。 が、自分を助けるために無茶をした和平にも腹が立つ。 (帰ったら…説教だな) それまではひとまず休ませてやろう。 スネークはしっかりと和平を抱きかかえると、出口へと急いだ。 |