お菓子のつかいかた

両手いっぱいのお菓子を持った樺地が跡部の横に立っているのを見て、桜乃は目を何度かパチパチと瞬きした。普段お菓子とは無縁に見える彼が両手でも抱え切れないほどのお菓子を持っているせいで反応に困っているのだろう。今もただ樺地をじっと見つめるだけで、何も口にはしなかった。跡部は跡部でどうお菓子を渡そうか悩んでいるようだった。普段あれだけえらそうに人に命令をする男が一人の少女に渡すお菓子をどう渡そうかで悩んでいるなんて、傍から見れば可笑しかった。あの跡部様にもこんな一面があるのかと興味深そうに見つめる通行人の姿。跡部はその姿に気づくと桜乃の腕をつかみ部室に走り出す。そして樺地もついて行くのが当たり前のように、あとを追った。

「あ、の、どうしたんですか?」
「いや、何でもねえ。少し周りの視線がうざったく感じただけだ」

冷静に、いつもの自分を演じようとはしてみるものの声が少し上ずる跡部。樺地はそんな跡部をハラハラしながら見守っている。だが桜乃だけは相変わらずのほわほわした空気で跡部ににこりと微笑んでいた。
やっと決心がついたらしい跡部は樺地に、大量にあるお菓子を机に置いてから自身は下がれと命令した。樺地は静かに頷くと両手いっぱいのお菓子と、いくつか床に零れ落ちたお菓子を机に置き静かに部室を後にした。

「…桜乃、お前確か菓子好きだったな?」
「え、あ、はい。甘いもの好きですよ」
「そうか。なら机の上のもの全てお前にやる」

いつも調子が戻ったように机の上のお菓子を指差して告げる跡部に桜乃は目を丸くした。こんなに貰えません、と予想通りの言葉も跡部は無視して桜乃の持っていたショルダーバッグにお菓子を詰め込み始めた。駄目ですという必死の訴えにも耳を貸さず、ただひたすらにお菓子を詰め込み、そして数分後には机の上のお菓子は全て桜乃のバッグに収まってしまった。

「あの、いいんですか…?」
「そんな大したものじゃねえから素直に受け取ればいい」

そう優しく言われたらもう返すわけにはいかなくなり、桜乃はかわいらしく笑い礼を言った。跡部の真の目的にも気づかずに。

(あれだけの量があれば、どんだけの男が悪戯目的で桜乃に近づいても問題ねえな)

跡部は一人満足そうに微笑んだ後、嬉しそうに笑う桜乃の唇にチョコを押し付けて、そしてその上から口づけた。桜乃が驚いて口をあけた瞬間、跡部は舌でチョコを桜乃の口内に押しやった。途端に広がる甘ったるいチョコの味。

「あ、跡部さんえっちです…!!」
「何とでも言え」

ふっと不敵に笑う跡部に桜乃はむうっと頬を膨らませながら睨みつけるが、その行為はただ跡部の理性を減らすだけの行為だった。


お菓子のつかいかた

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2012年『ハロウィン企画』
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