いつでも彼女が世界の中心

去年とは比較にならないほどの暑さが続き、強豪テニス部と言えども厳しい毎日の練習に音を上げる寸前になっていた。いくらスポーツドリンクを飲んでも潤うことのないのどは喋るたびにカサカサと乾いてゆく。喋ることすら億劫になった彼らにある一つの案が思い浮かんだ。

―水中でしかできないトレーニングをしよう!

ということで訪れた市民プールは、平日の朝ということもありそれなりに空いていた。それを見た桃城や菊丸が嬉しそうに飛び跳ねる。邪魔をされずに練習できることが嬉しいのだろうか、それとも遊びたさからなのか。そんな様子を見ていた一人の少女は可愛らしく笑った。

「あの、私もついてきてよかったんでしょうか。皆さん今日は練習のためにここに来ることになっていたとお聞きしたので…」
「ぜーんぜん気にしなくていいよん!桜乃ちゃんなら大歓迎!」
「…別にいいんじゃない?」
「おチビ素直じゃなーい」

困ったような表情をした桜乃に菊丸はいつもの笑顔を桜乃に向ける。そして越前も素直じゃないが、桜乃がここにいることを了承する。菊丸にからかわれて頭をポンポン叩かれる越前はやめてくださいよなんて言いながら抵抗している。桜乃はその仲の良さを見てまたクスクスと笑った。
こうして話している間に来場客がだんだんと増えてくるのを見た手塚が、準備運動を開始するように指示を出そうと口を開いた瞬間、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。間違えようがないほど、聞きなれた声だ。振り向く必要などないほどにその声の主が誰か分かっていた為、振り向きたくはなかったがそういうわけにもいかない。手塚が嫌々振り向けば、やはりそこには氷帝の跡部が無駄な色気を醸し出して嫌な笑顔で立っていた。青学メンバーは一様にですよねーという表情で氷帝のメンバーを見た。

「桜乃ちゃんはどっちか言うたらこっち側やん」
「そうそう、桜乃は俺らと一緒にいればいいんだって」
「いっそのこと氷帝に転入しちゃえばええんちゃう」

忍足と向日が楽しそうに笑って桜乃を自分たちのほうに呼ぼうとするが、青学のメンバーが桜乃を守るように全員立ち塞がったため身動きがとれなくなった。氷帝側からは全くといっていいほど、姿が見えない。流石にその行動にカチンときたのか、今まで余裕の笑みだった跡部が表情が怒りに変わり、そして「俺の女だ」と意味のわからない発言までぶちかます。
それが、以後そのプールの伝説となる「水中争奪戦」の幕開けとなったのだ。


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