泣かないで、笑ってよ

▽新妻/桜乃視点


結婚してから気づいたことはたくさんある。たとえば、彼は髪の毛は洗った後は自然乾燥だとか、そういうちょっとした発見が今はとても嬉しい。
けれど私は髪の毛はしっかりと乾かさないと気になっちゃうから、彼の髪が濡れているのを見るとうずうずしてどうしても我慢できなくなってしまい、つい世話を焼いてしまう。

「リョーマ君、もう少し拭いたほうがいいよ」

リョーマ君の肩にかかっているタオルを手に取りなるべく優しく力を入れて拭いてあげると、リョーマ君が小さく笑った。そういうお節介なとこ変わってないね、って言われて私もつい笑ってしまう。そうだねって言おうとしたら突然振り向かれてあまりの至近距離に顔が熱くなる。でもリョーマ君はそんなこと気にしている様子もなくて、私の肩にかかっているタオルで私の髪を優しく拭いてくれた。

「人のこと言えないでしょ、桜乃も」

優しいねリョーマ君。そう言えばリョーマ君は恥ずかしそうに顔を背けた。
でも、お互いに拭きあっていたらタオルで前が隠れてしまい、拭けているのかどうか分からなくなった。

「ふふ、何も見えないね」
「そうだね」

笑って言えばリョーマ君も笑って返事をしてくれた。別になんてことはないのに、リョーマ君の笑顔を見ただけで嬉しくて、私は幸せな気持ちになる。
毎日楽しいことだらけで、時々こんなに幸せでいいのかなって考えることがある。でもリョーマ君の笑顔を見ていたらそんな悩みがちっぽけに思えてきた。

「…リョーマ君、」
「ん、なに?」
「私、すごく幸せだよ」

笑って言うつもりだった私の目からは涙がこぼれおちた。でもタオルで前は隠れているから、リョーマ君には見えない。タオルがあって良かったって思ったけど、リョーマ君は私が泣いていることに気づいているらしく、幸せなら笑ってよって抱きしめてくれた。そんなことされたら、余計泣いちゃうよ。でもリョーマ君は笑うまで離してくれそうにない。苦しいよって言ってもダメの一言。けどこのままでもいいかなあなんて思ってしまう私は優柔不断なんだと思う。
リョーマ君は中々泣き止まない私を更に強く抱きしめて呟いた。

「桜乃は笑顔が一番似合うんだから、笑ってよ」

そういわれたとき私は自然と笑顔になっていて、それを見たリョーマ君は嬉しそうに笑ってそれから私の唇に自分の唇を重ねてきた。心の準備もなにもできていなかった私は驚いて声が出なかった。

「泣いてる顔を可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だね」

悪戯っぽく笑って言うリョーマ君が、私の唇をもう一度奪っていった。


泣かないで、笑ってよ

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りあさんへ。
リクエストありがとうございました。


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