▽リコ視点

珍しくダジャレ抜きの真剣な彼は、なぜか片手に可愛らしいお化けの絵柄のお菓子を持って私に迫ってきた。どうしたの、と言いかけた私の唇をクッキーで塞いだ彼はにこりと笑って、そのまま私の口にくわえられたクッキーをかじった。想像以上の至近距離に思わず後ずさろうとする私の腰に腕を回してそのまま彼の腕の中に抱き寄せられる。

「?!?!」

いくらまだみんなが来ていないからって大胆すぎるんではないか。いったいどうしたのと聞きたいのに、彼は次から次へと私にお菓子を食べさせては、ただにこにこと笑っている。それも腰に腕を回したまま。いったい何を考えているのか私にはわからない。
いつも耳にたこができるのではないかというぐらい聞きなれた彼の大好きなダジャレも今日はまだ聞いていない。こんな理解できない行動をされたのは初めてだから、私自身どうしていいのかわからず、ただ彼が口に運んでくるお菓子をひたすら食べていた。

「カントク、」
「え、なに…?」

今日初めて聞く伊月君の声だった。いつもより少し低めのトーンで、囁くように私を呼ぶ。無駄な色気を含んだ声色でなんだか緊張してしまう。伊月君の顔がまともに見れなくて、少し視線を外して彼の次の言葉を待っていたら突然伊月君が顔を近づけてきた。目と鼻の先に彼の整った顔がある。近い、近すぎる。こんなに近づかれたらどうしていいか分からなくなる。早く離れてほしかった。それなのに。
彼は何故か反対にどんどん距離を近づけて、そのまま私の唇に自分の唇をくっつけた。

「ちょ、っ伊月君!」
「…カントクの唇、柔らかいな」
「何、言って、」

私の唇についていたクッキーを舌でぺろりと取った伊月君は妖艶に笑っていた。そしてカントクには特別サービスしてあげただけだよ、なんて楽しそうに口にした。

「悪戯とお菓子のセット、どうだった?」

trick or treat、本来なら悪戯かお菓子、どちらかひとつを選択するはずなのに。彼はあっという間に両方を私に贈りつけた。私の意思などまるで無視して。
なんて強引なんだろう。でも不思議と嫌だと思わなかった。

何で、ときめいちゃったんだろう。


悪戯もお菓子も両方あげる

−−−−−−
2012年『ハロウィン企画』
蜜柑様へ


BACKNEXT


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -