▽大学生/火神視点

まーたこんなに大きくなっちゃって。
オレを見ながら恨めしそうに言ったのは高校時代のバスケ部のカントクで。何一つ変わっていない姿に少しだけオレは安堵した。

「カントクは変わってないッスね」

細っこい体とか、その笑顔とか。そんな別に大した意味を込めていなかったけど、カントクのある部分のコンプレックスは健在のようで、突然背伸びをしたと思ったら頭を思い切り握られた。力も昔劣らず、いやむしろ更に力がついたような気もする。やっぱり変わってない。きっと今もたくさんのバスケ部員を育てているからだろうと思った。
カントクがふっと力を緩めた隙を狙って、今度はオレを撫でてみた。別に意味なんてない。なんとく、だ。

「カントク、お疲れ様、です」
「随分突然ね…」

カントクが不思議そうに顔を見上げながら口にする。本当に突然だったと思う。ただ、小さい体で頑張っているカントクがすげえって思っただけで。…そうだ、カントクは今でも前に向かって走り続けているんだ。
高校を卒業してバスケから離れた生活をしている奴らがたくさんいる中で、カントクはまだバスケ部の監督を続けている。カントクは卒業式の後すぐに体育館にやってきて、オレ達後輩の指導を始めた。キャプテンや木吉先輩と離れ離れになって辛いはずなのに無理して笑いながら。本当にすごいと思うし、尊敬する。
卒業してから初めて顔を出したとき、初々しい新入生がたくさんいてオレにあいさつをしてくれた。カントクはその様子を見て「男の子っていいなあ」なんて呟いていたのを覚えている。選手と監督、絶対に越えられない壁をカントクはずっと見つめていたのだと、今なら分かる。選手という、絶対になれない存在にカントクはずっと恋焦がれていた。きっと、それは今でも。

「少しは気を緩めて休んでくれ、ですよ」
「…ん、ありがとう」

オレの言葉の意味に気づいてくれたのか、安心したようにやわらかい笑みを浮かべる。オレはその笑顔に少しだけ安心して、微笑み返した。


ずっと恋焦がれていたもの


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