市丸ギンという男はただ不器用なだけだ。人を不器用にしか愛せない男。それを理解したうえで織姫は市丸を愛している。寧ろその不器用さを愛しく思っている。不器用な彼の愛し方が好きなのだ。「愛している」と面と向かって言うのではなく、遠まわしに回りくどい言い方しかできない彼だが、そんなところも含めて織姫は彼を愛している。今では彼が居ないと落ち着かないほどだ。

「市丸さん、」
「ん?どうしたん織姫ちゃん」
「中々眠れなくて…市丸さんもこんな遅くまで何をしているんですか?」

机に向かって何かに真剣に目を通していた市丸に織姫は首を傾げながら尋ねた。市丸はあぁこれなあと言って分厚い書類を数枚ペラペラと捲って見せた。どうやら、新しく三隊に入ってくる隊員の履歴書らしい。一枚一枚真面目な顔をした男女の写真が張り付いていた。市丸はそれを一枚一枚チェックして、個人個人の能力を把握していたと言う。

「すごい量ですね…今日だけで覚えられますか?」
「徹夜する勢いなら、何とかなりそうやなあ」
「徹夜は流石に駄目です。体を壊しますよ?」
「大丈夫や。1日徹夜したぐらいじゃ体は壊さへんよ」

にっこり笑ってみせるが、織姫は市丸を信じようとはしなかった。それが終わるまで私も傍に居ます、と言って隣にあった椅子に腰掛ける。市丸は参ったなあといった風に笑い、それから織姫を抱きかかえてソファに向かう。そしてソファに優しくおろすと、自分もソファに腰掛けた。

「本当は今日の分はもう終わってるんや」
「そうなんですか?」
「そうなん。やから、今日はもう寝ようか思って。織姫ちゃん一緒に寝てくれへん?」

甘えたように言う市丸に織姫はクスリと笑っていいですよと頷いた。狭いソファに寄り添うようにして寝転がってみると、お互いの体温を間近に感じて織姫は頬が熱くなった。


狭いソファに二人でごろり


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