織姫はまだアツアツの鯛焼きを半分に割って、隣に座る恋次に手渡した。熱いよ、と織姫が忠告したにもかかわらずそれを素手で受け取った恋次はアツッと言って鯛焼きを地面に落としそうになる。だが寸でのところで鯛焼きをキャッチして、それを口に入れる。

「ふふっ、恋次君。おいしい?」
「ああ、うめえ」

半分といってもかなりの量の餡子が入っていた鯛焼きをペロリと平らげた恋次を見て、織姫はクスリと笑いながら、残りの鯛焼きを口にした。甘すぎないその餡子はとてもおいしく、半分では足りないくらいだ。恋次もそう思っているのか、織姫の残り少ない鯛焼きをじっと見つめている。織姫はそれが可愛く感じて、頬を緩めると恋次も織姫を見て同じように頬を緩めた。

「井上、ここに餡子がついてる」
「え、どこ?」
「違う、もっと右だ。いきすぎだって、もう少し左…ああもうしかたねえ」

織姫が恋次に言われたとおり、自分の頬に手をやり餡子を取ろうとするが中々取れない。恋次が一生懸命場所を教えるが伝わる気配がない。もどかしくなった恋次は、織姫の頬についた餡子を己の舌でペロリと舐め取った。やわらかい舌を頬に感じて、織姫は一気に顔を赤くする。そのタコのように赤い顔を見て恋次は「可愛いすぎんだろ」と言って笑った。織姫はその言葉に更に顔を赤くしてうつむいてしまった。

「井上、顔上げろって。ほら、俺の方見ろ」
「…やだ」
「駄目だ、俺を見ねえとキスするぞ」

それも駄目、と織姫が口にしようと顔を上げた瞬間、もう恋次の唇は織姫の唇に重なっていた。至近距離で、恋次と目が合う。今までキスするときは目を閉じていたため、至近距離で見詰め合うことはなかったが、今は突然のキスだったので目を開けたままになりかなり至近距離で見詰め合うことになってしまった。恥ずかしくて、そのキスから逃げようと恋次の胸を押してしまう。だが、力で恋次に敵うはずもなくびくともしない。

「ぷはっ、れ、恋次君!」
「ん、やっとこっち見たな」
「…っ!恋次君嫌いっ!」

ぷいっとそっぽ向きながら言う織姫に恋次はぷっと小さく吹き出した。


こっちをみてよ愛おしい人
title by 宇宙


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