しえみ、と柔造が優しく呼びかけると呼ばれた少女はやわらかな可愛らしい笑みを浮かべて庭の花壇に花を植えながら「ここですよ」と返事をした。土が頬についても全く気にせず楽しそうに花を植えている少女を見て柔造は今度は何を植えているんだろう、と優しく微笑んだ。ゆっくりと近づいて後ろから覗き込めば、釣り鐘に似た形をした花を植えていた。
「これ、なんていう花なん?」
「カンパニュラっていうんです。可愛いですよね」
そういって笑うしえみの方こそ可愛くて、柔造は曖昧な返事しかできなかった。だがカンパニュラという花は確かに可愛らしく色も淡くて、派手な花をあまり好まない柔造には好みの花であった。
柔造がふとしえみの手元を見れば、素手で作業をしたせいかたくさんの小さな切り傷ができていた。白くて小さなかわいらしい手にできた傷はそれほど痛みはないだろうが、傷跡を残したくないという柔造を焦らした。
「しえみ、手怪我してるやろ。手当てするからこっちおいで」
自分の部屋から救急箱を取り出してきた柔造が縁側に腰を下ろして手招きをした。すでに植え終わっていたしえみは着物についた土や泥を掃い柔造の下に小走りで向かう。柔造はしえみが目の前にくると、自分の膝の間をぽんぽんと叩く。どうやら膝の間に座れ、ということらしい。しえみは何の躊躇いもなく柔造の膝の間に腰を下ろした。すると柔造はしえみの手を取り濡れタオルで丁寧に拭き始めた。
「しえみは女の子なんやから手大事にせんとあかんで?」
「…ごめんなさい」
「ああ、謝らんでええ。ただ、今度花植えるときは軍手してくれへんか?こないに綺麗な手に傷がついているの見たくないねん」
そう言いながら柔造はしえみの手の甲に口付けた。驚いたしえみはビクンと肩が上がる。柔造はその反応を見て小さく笑ったあと、耳元で囁いた。
「そないにかわええ反応して、俺をどうしたいんや?」
色っぽく囁かれしえみは顔だけじゃなく全身を真っ赤に染め、からかわないで下さいと言って柔造の膝から抜け出した。しかし逃がさないといった風に柔造が伸ばした手はしえみを捕まえ、そして元の場所に引き寄せた。再び柔造の膝の間にスッポリと収まったしえみは観念したのか急に大人しくなる。それを見てにやりと口角を上げて笑ったかと思えば突然柔造はしえみをお姫様抱っこして立ち上がった。「どうしたんですか」と首を傾げるしえみの唇を奪って、柔造は自分の部屋に向けて移動を始めた。
「怖がらんでええよ。優しくしてあげるからなしえみ」
そうは言うが柔造の笑みが恐ろしくしえみは顔を真っ青にして、ガタガタと肩を震わせた。まさに絶体絶命という状況に立たされたしえみが、解決策が全く思い浮かばずそのまま柔造においしく頂かれたというのは言うまでもない。
誘毒にかかった
(しえみが解毒剤やねん)
title by 自慰
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