最初は何て馬鹿な男だろうと思った。けど、あいつは誰よりも強くあろうといつも自分と戦っていた。そんなことも知らずに私はただ逃げていた。でもそれを認めたくなくて私は気づかないフリをずっとしていた、だから脱衣所で襲われたとき何もできなかったんだって今だから分かる。情けない、悔しい、涙をたくさん流した。あいつはその時私の頭を撫でて、そして強く抱きしめた。…今だって私を抱きしめている。いつもだったら何すんのよって一発殴ってやるところよ。けど、どうしてもできなかった。あいつの腕の中は信じらんないくらいあったかくて、心地よかった。涙が溢れ出して止まらなくなった。ああもう、どうして、止まらないの。どうして、優しくするの。

最初は何て嫌な女だと思った。けど、あいつは誰よりも友達思いで、どんな時でも友達を一番に考えて、護ろうとする。強い心を持っているんだ。そんなあいつが涙を流した時、俺はどうすれば泣きやむのかとかを考える前に、行動していた。気づけばあいつを抱きしめていた。その度に一発殴られるけど、今日は違う。大人しく俺の腕の中で涙を流していた。溢れ出して止まらない涙は俺の制服をぐっしょり濡らしている。どんなに苦しい思いを抱えているんだろう。どんな気持ちで戦っているんだろう。そればかりが気になって、俺はほかのことが考えられなかった。

「ねえ、」
「なあ、」

ほとんど同時に二人は口を開いた。見事に声がハモり、二人はお互いの顔を見る。予想以上に距離が近くて、今にも唇と唇が重なりそうだった。同時に二人は林檎のように頬を赤く染めて、別々の方向を向く。落ち着こうと深呼吸をしてみるが、二人の胸はドキドキと高鳴ったままである。何か喋ろうと思い振り向こうとするが、先程喋ろうと思っていたことが見事なまでに頭から抜けていることに気づき振り向くのをやめる。それから何でもいいから話題を、と思い一生懸命考えて、再び出雲は口を開いた。

「「あの」」

すると今度も声がハモり、そしてかなりの近さに顔を赤くした。

「ば、ばかっ!」
「ばかじゃねえよ!神木がタイミングずらせ!」
「なっ!あんたがずらせばいいでしょ!」

そう言い争うものの、二人は幸せそうな笑顔だった。


きっと、もう恋は始まっていた
(あいつの涙を見た瞬間から)


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