▽燐視点/いい夫婦の日


ここまでくるのに俺たちにはいろいろなことがあった。けどそれを乗り越えて俺たちはこうして、夫婦として一緒の家に住んでいる。毎朝しえみの可愛い声で起きて、可愛い笑顔で癒されて、そして俺が作ったご飯を一緒に食べる。しえみほどおいしそうに食べてくれる奴なんて他にはいないと思う。こんな風に口元に米粒がついても気にせずニコニコと笑いながら「おいしいね」なんて言ってくれるしえみは、本当に可愛い。

「まだおかわりあるからな」
「うん!燐、いつもありがとう」

ほわほわとした笑みは変わらず、しえみはその笑顔を俺に毎朝向けてくれる。俺だけに向けてくれる嬉しさは半端じゃない。しえみの周りに男が俺しかいない、これほど安心できることなんてない。しえみは昔から無防備で、周りの男のアプローチなんて気づいたこともない。本当に鈍感だ。それが可愛いな、とは思ってたけど見てるこっちはずっとヒヤヒヤしていた。本当に大丈夫なのか、チラチラ見て気にしていたら変な男についていきそうになってたときだってあった。またあるときは手を握られていた。そんなことをされてもしえみはいつもの優しい笑顔を浮かべてるだけなんだ。本当に、危なっかしい。

「…ねえ、燐?」
「うおっ、な、何だよしえみ」
「ううん別に何でもないけど…燐ボーッとしてたからどうしたのかなって」

少し考え事をしすぎていたみたいだ。しえみが俺の目の前まで顔を近づけていたことに気づかなかった。しえみは俺が考え事をしている間になにかしゃべってたみたいだけど、俺がそれを聞いてなかったから少しムッとした顔をしていた。俺がごめんと言っても中々許してくれない。何だか相当大事な話だったらしい。だったら尚更許してもらわねえと。

「ごめん、しえみ。今度はちゃんと聞くから、な?」
「本当…?」
「本当だって、絶対」
「…じゃあ、許してあげる」

ふわりと笑ってしえみは言った。良かった、許してもらえた。そんなことを俺はのんきに思っていた。けど、次の言葉で俺は放心状態になった。

「あのね、私のおなかの中にね。燐の…赤ちゃんがいるの」

少し恥ずかしそうにしえみは俺にそう言った。どんなに頭をフル回転させてもすぐにその言葉を理解するのはできなかった。しえみのお腹のなかに赤ちゃん。すげえ嬉しいのに、喜び方がわかんねえ。嬉しすぎてどう反応していいかわかんねえ。俺の驚きっぷりにしえみはクスクスと小さく笑っている。やべえ、本当に本当なんだ。しえみのお腹の中に赤ちゃんがいるんだ。

けど、もし俺と同じ悪魔だったら。俺の血が流れているわけだから、もし悪魔だったら…そう考えると俺は知らずのうちに表情が曇っていた。しえみは俺の表情の変化に気づいたのか、心配そうに俺の顔を見つめている。…駄目だ、しえみを不安にさせたら。これから俺たちの子を必死に産んでくれるのに。たとえ悪魔の子でも、俺たちの子であることには変わりはないから。だから、俺はしえみと子供を精一杯護ってやる。

だから、


∵いつまでも俺だけを見てろ



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