静かに雨は降りだして、しえみの制服にいくつもの模様を作った。走り出したときには遅く強く降り出してきてずぶ濡れになってしまった。近くの、シャッターが下りている店の屋根の下で雨が止むのを待つことにしたしえみ。
その時に聞こえてきた恋人を迎えに来たらしい恋人の声。子供を迎えに来た母親の声。色々な声が遠くに聞こえる。音の洪水に思わずしえみは耳をふさぐ。急に自分一人知らない世界に取り残されたような感覚に襲われる。自分は一人ぼっち。祓魔塾でも何の役にも立てない自分に、帰る場所はない。そう思わずにはいられない。
そのとき、耳をふさぐしえみの手に誰かがそっと手を重ねた。
「アマイモン、君…?」
「しえみ、耳をふさいではボクの声が聴こえません」
「…?」
言葉の意味が分からない。アマイモンはしえみの手を強く握りしめた。そしてしえみの頬にキスをする。けれどアマイモンの言葉の意味が分からないまま、首を傾げるしえみに口を開く。ゆっくり、優しく語りかけるように。
「しえみが周りの音を聞くのは拒んでは、駄目です。ボクの声まで届かない」
アマイモンが初めて見せた切なそうな表情。しえみの胸までぎゅっと苦しくなる。アマイモンはしえみの辛い気持ちに気づいていた。だからこうしてしえみの気持ちを軽くしてあげようとしているのだ。嬉しくもあるけれど、切なくて涙が溢れそうになる。声を我慢しようとしても、漏れてしまう。切なくて、苦しくて、思わずアマイモンの名前を呼ぶ。
「アマイ、モン、くっん」
「しえみ、泣いてもいいんです。しえみが涙の雨を流すときは、ボクが雨宿りする場所になります。だから、今は好きなだけ泣いてください」
涙を流してしえみはアマイモンの胸に飛び込んだ。その胸の中は温かく、落ち着けた。アマイモンに抱きしめられ、しえみは静かに目をつぶる。そして静かにアマイモンの名前を呼んだ。アマイモンも優しい声でしえみの名前を呼んだ。
しばらくするとしえみは泣きやみ、アマイモンに微笑む。空を見上げると、しえみと同じように雨は止んでいた。
雨宿り
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企画『脳内天国』様提出。
素敵な企画に参加できて、良かったです。アマしえは私の中でとてもシリアスな関係です。けど深い絆で結ばれていて、お互いの気持ちが分かっているといいな、という妄想から今回の話ができました。皆様に少しでもアマしえの良さが伝わると嬉しいです。読んで下さった皆様ありがとうございました。
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