由奈は時間に余裕がある日は家まで迎えに行くようにしていた。その甲斐あって、最近巳城自ら学校に登校してくれるようになったのだ。だが、いいことばかりではない。学校に来た時は必ず由奈も一緒であった為、誤解されることもしばしばあった。

***

由奈達の周りの者の間で変な噂が流れていた、それは小さな誤解から生まれた噂。その内容というもの、「五十嵐由奈が巳城タクミの家によく泊まっていて、そこから学校に通う日もある」という真実が一つもない噂。噂の出所は、巳城の家の近くに住む一年生。朝早くに巳城の家から、巳城と一緒に出てきた由奈を見て勘違いしたらしい。が、いくらなんでも決め付けるのが早すぎる。しかし文句を言っても手遅れなわけで、噂はずいぶん広が今では有名なカップル。由奈はそのことに不満を持っていた。

「うー…嫌だ」
「どしたの〜?」
「噂。証拠もないのに、面白がって広めちゃってさ…」

由奈は疲れきった顔でそう言った。それもそのはず、毎日色んな生徒に巳城との噂の真相について聞かれるのだ。その度に噂は嘘であることを説明するのだが、中々引き下がってくれないのだ。どっちから告っただの、初キスはいつだの、初体験はいつだだのと、興味津々な彼ら。そんな生活に由奈は疲れていて、体力もかなり削られていた。しかしそんな由奈の気持ちも知らずに巳城は楽しそうに笑う。

「好きにさせときなよ。その方が都合いいデショ?」
「いいデショ?って…。何で都合がいいの?」

由奈が逆に聞き返すと巳城が驚いた顔をして、その後すぐに馬鹿にしたような笑い方をした。

「俺の由奈に、近づく男が減るだろ?」
「あ…」

そこでやっと巳城の言葉の意味に気づき、頬を赤くする由奈。その様子を見て気分が良くなった巳城は、由奈の鼻に、頬に、唇にキスをした。そして耳元で一言、かわいいとつぶやく。由奈は、恥ずかしくて耳まで真っ赤にして俯いてしまう。ここは学校まであと1kmという、たくさんの生徒が登校中の通路。俺は何も見てない!とでも言うように通り過ぎて行く人もいれば、まじまじと見ながら通り過ぎる人、後ろできゃあきゃあ騒ぐ女子。いくつもの視線を感じて、由奈は歩きだす。赤くなった頬を冷ましながら、由奈は言った。

「それも悪くないかも…」
(タクミ君に近づく女の子の数も減るだろうし…!)

「だろ〜?由奈なら分かってくれると思った」
「ふふ…っ」

巳城に再び唇を奪われ真っ赤になる由奈だが、今度は幸せそうな笑顔を浮かべただけだった。

「好きだよタクミ君」
「俺もだ由奈」


噂を味方にして幸せになろう
(貴方と重ねた唇がまだ熱い)


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