▽剣茜←拓/シリアス

これから先も絶対に彼女は自分のことを見ていてくれる。俺はそう信じて疑わなかった。だから、彼女の口から「恋してるの」と聞いたときは鈍器で頭を殴られたように鈍い痛みに襲われた。瀬戸に話しているのを聞いてしまっただけで、直接聞いたわけではないのに、苦しくてたまらなかった。もっと早く彼女の気持ちにこたえていれば、何か違っていただろうか。
彼女は一体いつから俺じゃなく、剣城のことを見るようになったのだろう。撮るようになったのだろう。彼女の視線はいつだって俺に向けられているはずだったのに、どうして、どうしてなんだ?
疑問ばかり浮かんでは消え、また浮かんでは消える。思わずかみ締めていた唇には赤い血が滲み、口の中いっぱいに血の味が広がった。あまりの気持ち悪さに水で口をゆすぐが気持ち悪さは消えず、口の中には血の味がまだ残っていた。

***

「茜!今日のベストショットは?」
「水鳥ちゃん。えっと、今日は剣城君、かな。デスソードがすごくかっこよかったの」

そう瀬戸に答えた山菜は女子特有のふわふわしたやわらかい笑みを浮かべた。瀬戸はそんな山菜にニヤニヤした笑みを向けたあと、ぐしゃぐしゃと髪を撫でる。それから「昨日も剣城だったよなあ」なんてからかうと山菜は俺が見たことない表情を見せた。頬を薄桃に染めてはにかむ山菜。今まで一度もそんな表情は見たことがなかった。

「あ、剣城!今日のベストショットもお前だってよ」
「み、水鳥ちゃん…っ、」
「そうですか」

たまたま近くに居た剣城に大声でそう告げる瀬戸に山菜は焦った表情で瀬戸の口を塞ぐ。だが今更塞いだところで意味などない。山菜は恥ずかしそうにうつむきながら、剣城の様子を伺っている。俺も気になって剣城の様子が気になり見ているが相変わらずのポーカーフェイスぶりで、表情を一切変えずに一言「そうですか」とだけ。今見た限りでは、山菜の片思いなのか、と少し安心したがそれはどうやら違うらしい。
一瞬、ほんの一瞬だが山菜と剣城の視線がぶつかったときお互いに微笑みあった。あの剣城がやわらかくて、温かい笑顔を浮かべていた。俺はあの笑顔がどんな意味を持っているのか知っている。あれは、恋する者の笑顔だ。愛しい者を見つめる、優しい瞳、笑顔。剣城は山菜、山菜は剣城をその愛しい者を見つめる瞳で見つめていた。

(お互いに想いあっている、ということか)

見ていられずに目を逸らした俺に追い打ちをかけるかのような言葉が耳に入ってきた。

「綺麗になったよな、茜」
「…ふふ、恋してますから」

綺麗に微笑んで山菜が言った言葉は、俺にとっては残酷な言葉でしかなかった。俺はがくがくと震える足を必死で動かし、その場を立ち去った。そのとき頬を生暖かい何かが伝っていた気がしたが、気づかないフリをした。


「恋をしてる」と笑顔で言う君、僕には残酷だったよ

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企画:△love triangles▽様提出。
素敵な企画に参加させて頂きありがとうございました。


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