練習の合間の休憩込みの昼食タイムになった。それぞれ色とりどりの鮮やかに彩られた弁当を広げて談笑しながらそれを食す。天馬たち1年も2年や3年からやや離れた場所に輪を作り食べ始めた。だがしかし剣城は一人だけ1年とも離れた場所に腰を下ろして弁当を広げている。それを見た天馬は一度下ろした腰を持ち上げ剣城の元へ向かう。
剣城は目の前で止まった足音と、視界に入ってきたランニングシューズに気づき上を見上げた。そこには無駄に笑顔の天馬が手を差し出していた。

「何だ」
「こんなところで一人で食べてないで一緒に食べない?」

鋭い目つきで尋ねてきた剣城に臆することもなく天馬は変わらずにこやかな笑顔で剣城を誘う。だが剣城がその言葉に頷くはずもない。断られても食い下がらず誘いつづけた天馬は何度目かの拒否でやっと諦めた。寂しそうに輪に戻っていく天馬の背中に申し訳なさを感じながらも、再び食べることに意識を向けた。
それから5分ほどした頃に、新たに剣城に声をかける者が現れた。それは意外な人物で、剣城本人も声を掛けられたことに驚きを隠せずにいた。

「山菜…先輩」
「何で天馬君たちのところに行かないの?」
「別に理由はないです」

優しいふわふわした微笑みで尋ねてきた茜に対して剣城は少し冷めた言い方をして答えるが茜は気にした様子も見せずにもう一度微笑んで見せて、それからゆっくりと剣城の隣に腰を下ろした。

「……?」

わけがわからず首を傾げて自分を見つめる剣城を気にせず茜は可愛らしいオレンジ色の包みを開け小ぶりのお弁当を取り出した。蓋を開ければ女の子が好きそうなタコの形をしたウインナーや可愛らしい動物がモチーフになった串に刺された肉団子などが見える。自分の弁当では滅多に見れないおかずに剣城はしばらく目を奪われた。
自分のお弁当を見つめる剣城に気づいた茜は彼が自分のおかずを物欲しそうに見つめているように見えたらしく、自分のお弁当からひょいと串に刺さった肉団子を取り出すと「はいどうぞ」と言って剣城の口元に向けた。

「、は?」
「欲しいんでしょ…?あれ、違うの…?」
「欲しいわけじゃ、」

そう言い掛けるものの何故か悲しそうな表情をする茜を見たら否定することができなかった。だが今まさに自分に向けられているいくつかの視線に耐えるのも辛かった。周りで弁当を食べるフリをして剣城たちのやりとりに意識を集中させている部員たちに剣城は思わずボールをぶつけてやりたい衝動にかられる。それを必死でこらえて横に座る茜が差し出してきた肉団子を口に頬張った。

「おいしい?」
「…うまいです」
「そっか、嬉しい。私が作ったの」

女子特有のあのふわふわとした笑みで茜は答えた。剣城は、まるで恋人のようにおかずを食べさせてもらった恥ずかしさと、その可愛らしいふわふわした笑顔を見て真っ赤になった頬をおさえて俯くしかなかった。周りでにやにやといやらしい笑いを浮かべていた部員たちに気づくことさえできないほどに、剣城の頭は茜のことでいっぱいになっていた。


駆け出したばかりの彼の恋

−−−−
nanaさんへ。


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