▽狩屋視点

天馬君の親戚で、「木枯らし荘」というアパートの管理人だという木野秋さん。料理が上手で優しくて笑顔が綺麗で、いいところを挙げたらキリがないくらい素敵な女性で。だから俺がどんなに想っても、絶対に結ばれることはないだろう。歳の差的に考えても結ばれることなんてありえないんだけどね。自嘲気味にそう自分に言えば、余計胸が苦しくなった。

俺は一度天馬君のアパートに遊びに来て以来、頻繁に木枯らし荘を訪れるようになった。今日も練習が早めに終わったから、秋さんに会いに木枯らし荘を訪れた。いつもなら天馬君と一緒に帰ってくるけど、折角いつもより早く帰れるならなるべく一緒いる時間を増やしたいと思って、天馬君を置いてきた。一人で木枯らし荘を訪れると、秋さんはアパートの住人じゃない俺も優しく迎え入れてくれ、そして自分の部屋に俺を招き入れてお菓子まで出してくれた。

「秋さんは、好きな人いないんですか?」
「ええ?随分突然ね」
「あ、すいません。気になって…」

突然の質問に秋さんは顔を赤くして俯いてしまった。俺よりも10歳以上も年上なのに、その姿に思わず「可愛い」とつぶやいてしまう。でも本人には聞こえてなかったらしく、俯いたままなのを見てホッと息をついた。
秋さんをちらりと盗み見てみたらまだ顔を赤くして口をもごもごとしている。

「あの、ね、気になる人はいるの。でも、きっと振り向いてもらえないだろうから、見てるだけって感じ、かな」
「…いるんですか」
「ええ、そういうマサキ君はいないの?」

ニコリと笑って訪ねてくる秋さん。胸が痛くなった。好きな人じゃなくても、気になる人がいる、その現実がこんなにも苦しい。上手く息ができなくなった。そんな俺に気づかない秋さんはもう一度俺に優しく笑いかけた。その笑顔が余計に俺を苦しめる。
俺は気づかれないように微笑み返した。

「俺も、気になる人はいるんです」
「ふふふ、どんな子なの?」
「…優しくて、料理が上手で、綺麗で…木枯らし荘の管理人をやってる人、です」

途中まで優しく笑って聞いていた秋さんが、最後の俺の言葉を聞いてすごく驚いた顔をした。…まあ当たり前か。突然年下の、しかも親戚の同級生に告白されたんだから。
秋さんは驚いた顔をしたまま固まってしまっていた。暫くして我に返るけど、今度は顔を真っ赤にして俺を見つめて「本気?」と尋ねてきた。「本気です」と真顔でそう言ったら秋さんは顔から火が出るんじゃないかってぐらいに顔を赤く染めて笑った。そして、俺にこう言った。

「ありがとう」

その言葉の意味は、秋さんの表情を見ればすぐわかった。俺は嬉しくて、ガラにもなくガッツポーズを決めた。そんな俺に秋さんは今日一番の微笑みを見せてくれる。
その時、玄関から天馬君の元気な「ただいま」が聞こえてきた。


アナタにあふれるありがとうを


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