▽未来捏造/秋視点

幸せそうに微笑む二人をたくさんの人が祝福している。良かったね夏未さん、そう言えたらいいのに。その言葉は私の喉につっかえたまま出てこようとしない。私の心が、その言葉を口にすることを拒否しているかのよう。

(覚悟できてたはずなのに…)

円堂君と夏未さんを取り囲んで盛り上がる元雷門イレブンのメンバーを遠目に見ながら、小さくため息をついた私の方を夏未さんがチラリと見た気がした。気がしただけで、実際はどこか違うところを見たのだろうけれど、私の心臓はこれまでにないくらい跳ね上がった。急に胸が苦しくなって、息がうまくできなくなる。私は会場の隅に移動して近くにあった柱に体を預けた。少し体が軽くなった気がした。大きく息を吸ってもう一度会場を大きく見渡せば、二人の門出を祝いに他校生もたくさん来ていることに気づく。

(たくさんの人に祝福されて幸せね、円堂君も夏未さんも)

ふっと頬が緩んだ瞬間、秋、と誰かに呼ばれた気がした。どことなく、円堂君に似た声。思わず円堂君の方を見るけれど、距離もだいぶあるし、それに壁山君に抱きつかれて苦しそうにしている姿からして私の名前を呼ぶような場面ではない。じゃあ、今のは幻聴?でも、それにしてははっきりとした声だった。不思議に思いながらも深く考えないでおこうと思った私の耳に、今度はもっとはっきりと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「円堂、君?」

どこから聞こえているのか分からないため、相手の正体も確定できない。けど何故か私には声の主が円堂君だという自信があった。今この場にいる円堂君とは別の、本物、というにはおかしいけれど、私が大好きな円堂君が私を呼んでいる気がした。
静かに目を閉じて、ゆっくりと目を開ける。そこには、私の大好きな、温かい太陽のような笑顔を浮かべた円堂君がいた。

「…円堂君?」
「秋、大丈夫か?突然倒れるからビックリしたぞ」
「倒れた…?」
「覚えてないのか?秋、倒れた後すごいうなされ始めてさ…心配したんだからな」

円堂君が言うには、私は熱がある体で無理をして倒れたそうだ。倒れた後円堂君が寝室まで運んでくれて、看病をしてくれたんだけど、すごいうなされようでとても心配してくれたようだった。
その話を聞いて、私は初めて円堂君と夏未さんの結婚式が夢の中での出来事であったことに気づいた。夢の中でもかなり苦しめられたけど、現実でもかなり苦しんでいたらしい。けど夢と分かって、嬉しさと安心で涙がこぼれそうになった。涙を瞳いっぱいにためる私を見て円堂君はあわてる。

「ど、どこか痛いのか?!それとも気持ち悪いとか?!」
「違うの…!あのね、安心したの」
「安心?」
「うん…。さっきね、円堂君が私以外のところに行っちゃう夢を見たわ。私じゃない子の横で幸せそうに笑う円堂君を見てるの、とても辛かった…。だから、今こうして傍に居ることが嘘みたいで、でも嬉しくて」

上手く言葉に出来ない私に円堂君は笑って抱きしめてくれた。そして優しくささやいてくれる。「俺はずっとそばに居る」その言葉が私の心にじんと響いて、離れない。円堂君のそのたった一言でこんなにも安心できる。
私は円堂君の背中にそっと腕を回して、胸元に頬を寄せた。すると円堂君は私の額にそっと口付けを落とした。


大丈夫、俺は傍に居るよ


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