▽狩屋視点

最近空野さんの元気がないのは、多分気のせいではない。表面的に変化がないせいか、分かりにくいけど話しかけてみればすぐに無理して笑っているのが分かる。誰にもバレないぐらいに明るく振る舞っているけど、所謂空元気なわけで。その姿が逆に痛々しくて、見ていられない。
原因は多分、失恋。最近天馬君と空野さんが2人でいることがないことを俺は知っている。天馬君も空野さんも自分でも気づかないうちにお互いを避けているようで、一言二言と言葉を交わすことさえない。けれど話しかけたくてたまらないといった表情をしているのも俺は知っている。俺が思うに天馬君は空野さんのことが好きだ。フってしまったのは、今まで幼なじみとして傍にいることが当たり前になっていたから突然の告白に戸惑って、自分の気持ちに気づかなかっただけなんだと思う。何でこんなに不器用な恋しかできないのか。
苦しんでいる姿は、俺まで苦しめる。俺だったら空野さんにあんな表情させないのに、俺だったら―…そんなことばかり考えちゃうんだ。天馬君が憎くて憎くて仕方がない。

「やめなよ、天馬君なんて」

気づけばそう口にしていた。空野さんはひどく驚いた顔で俺を見た後、泣きそうな笑顔で微笑む。「そっか、気づいてたんだ」なんて小さく呟いた後またクスリと小さく微笑んだ。何で笑っているのか俺には分からなかった。胸が張り裂けそうなくらいに苦しい癖に、何で笑ってんだよ。意味わかんねーし。少し冷たい気がしたけど、そう口にすれば空野さんは「自分でもよく分かんないんだ」なんて言ってまた笑った。何だよそれ、本当分かんねえよ…。
フラれても空野さんの視線の先には必ず天馬君がいた。楽しそうにサッカーをしている姿は俺にも輝いて見えた。空野さんが天馬君を好きになった理由なんて、想像よりずっと単純で、つまりはサッカー馬鹿でどんなことにも体当たりで立ち向かっていくところだ。俺にはないサッカーへの大きな愛。敵うはずがない。俺が天馬君になることは絶対にできない。そんなこと分かっていた。ずっと前から分かっていたことのはずなのに、俺の胸は張り裂けそうなぐらい痛んだ。

「一人者同士、俺らお似合いじゃん?」

なんて笑ってふざけてみた。空野さんはまたあの泣きそうな笑顔を俺に向け「そうだね」と口にした。無理して合わせなくてもいいのに、空野さんは優しいから。

「無理しなくていいよ」

空野さんはありがとうと一言呟いてそれから、笑った。泣きそうな笑顔じゃなくて、いつも通りの太陽のような温かい笑顔だった。


それでも僕は君を愛してみたかったんだよ
(君が誰を好きだと知ってたとしても)

title by 自慰


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