▽立春立/ぬるいえろ/立向居視点

僕を上から見つめる音無さんはどこか切なそうで、瞳には今にも溢れ出しそうなくらい涙を溜めていた。僕は何かしてしまったのだろうか、と最近の行動を思い出してみるけれどこれといった原因は見つからない。音無さん、となるべく優しく呼べば音無さんは突然僕の唇をふさいだ。お世辞にもうまいとはいえないキス。音無さん自身も上手く息ができずに苦しそうに表情を歪めた。それでも一生懸命キスをする音無さんが何だか可愛くて、僕はお返しとでもいうように舌をいれてみた。

「ん…ふぅっ、たち、むかいくっ」

苦しいだろうに僕のキスに応えようとしてくれる音無さん。ああ可愛いなあ。瞳に溜めていた涙はもう零れてしまっていた。けれどそんなこと気にもせず僕はキスを続けた。
音無さんが降参して僕の胸をどんと押したとき初めて僕は音無さんの唇を解放してあげた。音無さんの頬は涙で濡れていて、それが妙に色っぽいなあなんてのんきに思う。音無さんは濡れた頬を拭って、そして僕に抱きついてきた。

「音無さん?」

僕の呼びかけには答えずに音無さんは突然僕の制服のボタンに手を掛ける。何をするのだろう、としばらく様子を見ていれば音無さんはボタンをはずし始めた。その行動の意図が読めずに僕はされるがままになっていた。その間にも音無さんはボタンを外し続けて、そしてあっという間に最後の1つを外した。そこでやっと僕は音無さんにどうしたの、と声を掛けた。

「…立向居君が私を抱いてくれない理由って、魅力がないから?」
「どうしたの突然」
「突然じゃないよ。私はずっと悩んでたの」

その表情は僕にキスをする前の音無さんの表情と同じだった。あのときの表情の理由はこれだったんだって今になって気づいた。
音無さんはずっと悩んでいたのに僕は気づいてあげられなくて、そしてここまで追い詰めてしまった。今更後悔した。音無さんを傷つけたくなくて、今まで優しい僕でいたけれどそれが逆に音無さんを傷つけていたんだ。もっと言葉で思いを伝えればよかった。そうすればこんなに追い詰めることにはならなかったのに。ごめん、音無さん。謝っても無駄だと思うけど謝らずにはいられない。

「立向居君は、私が好き?」
「好きだよ。昔も今もずっと音無さんが好き。大好きだよ」
「じゃあ、どうして抱いてくれないの…?もう3年も付き合ってるのに…っ」

涙を流して僕に言った。すれ違ってばかりだ。僕はこんなにも音無さんが好きなのに。愛してるのに。どうすれば思いを伝えられるんだろう。どうすれば安心させてあげられるんだろう。全然分からない。だから僕はとりあえず抱きしめた。どこか遠くへ行ってしまわないように強く抱きしめて、「愛してる」と伝えてみた。思いをぎゅっと詰め込んで、音無さんへ。愛してるよ、もう離れたくない。離したくない。

「…ばか、もう不安にさせないで…っ」
「うん。ごめん。もう絶対に不安にさせない。それと僕は音無さんのこといつでも思ってるから。信じてほしい」
「…うん、信じるよ」

そして今日初めて音無さんは笑った。


大丈夫、ちゃんと好きだよ
title by 自慰


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