彼はこんなに人に甘えることのできる人間ではなかったはずだ。秋は出会ったばかりの頃を思い出してみても、その考えに変わりない。彼の与える印象はとても冷たく、どこをどう見ても人に甘えることのできる人間には思えないだろう。秋は、今自分を後ろから抱きしめて肩に顔を埋めているバダップを横目でチラリと見て、「変わったなあ」としみじみ思った。

誰にも打ち解けずただ孤独に生きているような彼は、秋の目から見てどこか寂しそうだった。その寂しそうな彼に何故か秋は惹かれ、どんどんと距離を縮めていき、いつの間にか一番近い存在となっていた。

「秋…眠い」
「あぁ、だってもう10時だもん。バダップ君、寝る?」

秋がそう聞けばコクリと頷く。ふふと笑って布団を用意しようと立ち上がろうとするがバダップは抱きしめたまま放そうとはしない。立ち上がれない秋がもう、と声を漏らすと次の瞬間、小さな寝息が聞こえてきた。規則正しい寝息は秋の耳元でしている。どうやら、バダップは秋を抱きしめたまま寝てしまったらしい。

「あら、寝ちゃった?…もうしかたないなあ」

抱きしめられたまま秋はそっとバダップの正面を見るように体勢を変え、そのままゆっくりと横たわる。そしてそのままそっと瞳を閉じて、深い眠りに落ちていった。


おやすみなさい、愛する人


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