誰かが「あいつが好きだ」と言えば、他の奴も対抗するように「俺も好きだ」と言った。それが果たして恋愛感情なのかどうかは定かではないが、好意をもっているのは確かなわけで、一気に空気が張り詰めた気がした。あのいつもは温厚な天馬でさえ、瞳が鋭く光り、目の前に立つライバル達を睨みつけているほどだ。唯一その戦いに加わっていない影山輝はおどおどしながらその様子をうかがっていた。

「剣城君さあ…空野さんが好きとか言ってるけど、それって対抗心からそう言ってるだけで、本当は違うんじゃないの?」

しばらく続いた沈黙を破ったのは狩屋だった。剣城を挑発するような目で彼にそう言うと、剣城がぎっと狩屋を睨みつけた。今にも殴りかかりそうな雰囲気を感じ取った影山が止めに入ろうとするが、逆に天馬と信助に止められる。驚いて二人を見れば、二人も似たような雰囲気で対峙していることに気づく。一つだけ違うとすれば、天馬も信助もお互い笑顔だということぐらいだろう。

「天馬さあ…いつも葵ちゃんの傍にいられていいよね。幼馴染ってだけで、何の理由もなく自然な形で横に立っていられるんだもん」

羨ましそうにそう笑って言った信助に天馬は「いいでしょ?」という風に笑ってみせた。だが二人とも心からの笑顔ではなかった、瞳が笑っていないのだ。上辺だけの笑み、心の奥底ではどれほど黒い感情が渦巻いているのだろう。影山は怖くなった。そして同時に、剣城と狩屋の方が気持ちが分かりやすくていいと思った。

「…空野さんってすごいモテるんですね」

狩屋達の争いを見てて思ったことをつい口にしてしまった影山に4人は揃って「当たり前だ」と口にする。

「仲良いですね」

上手くハモった4人にそう返事をするとまた綺麗にハモった返事が返ってくる。その返事を聞いて思わず笑ってしまう影山に4人は呆れてため息をつく。しかしそのため息のタイミングまで同時なので影山はまた笑ってしまうのだ。今度はバレないように小さくこっそりと。

4人が言い争っている間に帰り支度ができた葵が現れると、4人は急いで帰り支度を始めた。葵の隣をキープするために急いでいるためだろうか、袖が上手く通らなかったりボタンがつけれなかったりと焦っている姿が見られる。影山はその様子を見てクスリと小さく笑った。そして、ちゃっかり葵の隣をキープしたのだ。残っているのはもう片方のみ。その片方は誰の手に落ちるのか、影山は一人楽しんでその様子を見ていた。


たった一人しかいない君が欲しくて


BACKNEXT


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -