▽水鳥視点
黙っていなくなったあいつが私は許せなかった。一言も、誰にも言わずにいなくなったあいつ。けどいなくなってから1週間経っても連絡が来ると信じている自分がもっと許せなかった。いつまでもうじうじしている自分がいて、それをあいつのせいにして、そんなの自分が悪いってわかっているのに。でも、一言ぐらい何か言ってくれればよかったのにさ。
それからどれくらい経ったのか。あいつはまた私の目の前に現れた。あのときと変わらない笑顔と、喋り方で。けどあいつは私の方を一切見ようとしない。視界に入っていないのか、どんな理由だろうと腹が立って仕方がない。やっと帰って来たかと思ったら私に見向きもしない。ばか。そうつぶやいたとき、あいつは私に気づいた。聞こえたのかと少し焦ったけど違うみたいだ。
「おおっ、瀬戸も久しぶりじゃのう!」
あまりの能天気ぶりに私の中で何かがはじけた。
「ばか!あほ!何が久しぶりだ!連絡もよこさないで何やってたんだよ!」
あ、と気づいた時には遅かった。周りにたくさんの人がいるのも忘れてみっともないくらい大きな声を出してしまった。皆ポカンと口を開けて私を見てくる。錦も私の声に驚いて何も言えずにいる。何も今言わなくても良かったのに、と自分で自分を恨むがそんなことしても時間が戻るわけでもない。恥ずかしくて俯きそうになったとき錦が口を開いた。
「…すまん」
「、」
「すまん…瀬戸。もうどこへも行かんぜよ」
「…っ当たり前だ!絶対だからな!」
私がそう言うと錦は昔と同じ、私が大好きなあの笑顔で頷いてくれた。
待ち人来たり
(やっと帰ってきたあいつを、もう見失いたくない)
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