▽水鳥視点

自分は茜ほど素直じゃないから、自分の気持ちに素直にならなくちゃ駄目だよ、なんて茜に言われても無理な話だと笑ってしまう。茜はそんなあたしも可愛いって笑って言うけれど、茜の方が可愛いと思う。というより羨ましいんだ。自分の気持ちに正直で、あんなにストレートに思いを伝えられる茜が。あたしはずっと、羨ましかった。

***

「好きです。付き合って下さい!」
「…すまない。君とは付き合えない」

部活中、フラリと姿を消した神童が気になって追いかけてみれば、告白シーンに出くわしてしまった。しかも告白されているのは神童だ。その様子を見てすぐに神童が部活を抜けた理由を理解した。
告白をした女子はフラれたと分かった瞬間泣き出して、何を思ったのか神童に抱きついた。何て大胆なんだろう、思わず感心してしまう。これだけ自分の気持ちストレートに伝えられる彼女を少しだけ尊敬した。でもそれと同時にひどく傷ついている自分がいることに気づいた。それが、神童が自分以外の女子と触れ合っているからなのか、彼女が言われた言葉がまるで自分に向けて言われているように感じたからなのかは、分からない。どうしようもないくらい、胸が痛む。

「…ふっ、く、はぁっ」

うまく息ができない。苦しい、痛い、痛い痛い痛い。思わずうずくまって胸をおさえるあたしの背中を、誰かが突然撫でてきた。少しずつだけど、痛みが引いていく。ゆっくりと振り向けば、茜が優しく笑ってあたしの体を抱きしめてくれた。茜、と名前を呼んだら「大丈夫だよ」といつもの笑顔であたしを安心させてくれる。ホッとして笑顔になるあたしに茜は優しく魔法でも唱えるかのように囁いた。

「ゆっくり息すって、はいて?」

それに頷いてゆっくりすってはいた。呼吸が楽になってきて、体の力が抜ける。茜はそれを見て安心したように笑ってあたしの体から離れた。サンキューと言おうとしたあたしの鼻に茜は突然口づけてきた。あまりにそれは突然で、驚くことしかできないあたしに茜は笑う。

「何だよ…今の」
「素直になれるおまじないだよ」

ニコリとふわふわした笑みで答える茜は可愛くて、あたしもこんな風に笑えたら、って思ってしまう。思わず小さく呟くあたしに茜は怒るんだ。「水鳥ちゃんは自分の可愛さに気づいてない」ってさ。そんなことあるわけないのに。そう思ったとき、茜はあたしの心の言葉を読んだかのように、「水鳥ちゃんは可愛いよ」と返してきた。

「水鳥ちゃんだって、素直になれるでしょ?」
「え、?」
「いつまで意地はってるの…?思いは言葉にしないと相手には伝わらないよ」

茜の言うとおりだと思った。いつまでも意地はってても意味なんかない。あたしが一歩進まなくちゃ、何も始まらない。意地なんて捨てればいい、素直になればいい。いつも自分で限界を決めてたんだ。自分にはできない、自分には素直になることなんてできないって。だから、あたしはいつまでも思いが伝えられなかった。
やっと、茜の言葉で覚悟を決めることができた。茜を見れば、「分かってるよ」とでも言うように頷いてくれる。あたしは茜に今一番の笑顔を見せて、あいつのところに走り出した。


素直になれたら、いいのにね


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