▽剣城視点
目の前で泣いている女子がいても、俺にはどうすることもできない。女子の扱いなんて知らないし、そもそも関わることを避けているから、女子がどういう生き物なのかもよく分からない。だからそこらへんの特に関わりのない女子が泣いていたとしたら無視する、絶対に。だがマネージャーとなると話は別で。少なからず関わりのある女子であるわけだから、無視はできない。それに、最近気になる人でもあるから、尚更だ。
「どうしたんですか、山菜先輩」
「あ、剣城君。その、カメラ壊れちゃって…シン様撮れないの」
「あぁ…なるほど」
カメラは山菜先輩にとってとても大切なもので、いつも大切に胸に抱くようにして持っていた。それが壊れたとあればショックを受けるのも無理はない。何枚分のキャプテンが無駄になったのか。山菜先輩の悲しそうな顔からして、相当な枚数だということが予想できた。キャプテン以外の写真は何とも思っていないのか、キャプテンの写真を失ったことしか悲しんでいないのか。何となく気になるが、聞かないでおく。聞いたところで、多分俺の予想と変わらないだろうから。
「みんなの写真、思い出たくさんつまってたの。だから…悲しい」
意外にも山菜先輩が悲しんでいるのは、雷門サッカー部に関わっている人物達との思い出の写真がなくなったことだった。写真がなくなったからといって、思い出までなくなることはないというのに山菜先輩はボロボロと涙をこぼす。
「思い出はなくなりませんよ。…それに今からまた思い出作ればいいじゃないですか。だから、泣かないでください」
涙を流す山菜先輩をこれ以上見たくないから、涙をふこうとするがハンカチがないことに気づく。俺は「すいませんこれで我慢して下さい」とジャージの裾でぐいと涙をふいた。山菜先輩は「ジャージは痛いよ」と言って笑ってくれた。あぁ、やっと笑った。そう安心して思わず俺は笑みをこぼしてしまい、その瞬間にパシャリと聞きなれた音がした。まぶしいと感じる暇さえない。山菜先輩の方を恐る恐る見てみれば、新しいカメラを持っていた。…侮れないな、この人。カメラが壊れてショックを受けていると思ったら、ちゃっかりもう新しいカメラを買っていたなんてな。あぁ、本当に侮れない。
「ふふっ剣城君の笑顔ゲット」
「…消してください」
「だめ。私剣城君の笑顔好きだもん」
ニコリと笑って山菜先輩は俺に言った。恋愛的な意味ではないが、「好き」と俺に言ってくれた。それがたまらなく嬉しい。ガラにもなく俺はニヤけてしまった。その瞬間またパシャリと音がして、山菜先輩の方を見ると満足そうにニコニコと笑っていた。
「笑顔…かわいい」
「か、わいい?それ、山菜先輩の方じゃないですか」
「え…?」
可愛いと言われて俺はついカッとなり、勢いですごいことを口走っていた。その口走った言葉は、俺だけではなく山菜先輩の方も赤くした。林檎みたいに赤くなった頬の熱を冷まそうと必死になるが、熱はどんどん上がっていく気がした。頬が熱い。ちらりと山菜先輩を見れば、俺同様にさきほどよりも頬が赤くなっている。
「嘘、じゃないですから…さっきの言葉」
そんな余計な言葉言わなくても良いのに俺は何故か口にしていた。それは多分…冗談で言ったと思われたくなかったからだ。だが、どうして思われたくなかったんだ…?いくら考えても答えは出てこない。ただ分かるのは、当分この熱は治まりそうにない、ということだけだ。
頭の中は、君一色
(ほかのことを考えられない)
title by Aコース
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