▽未来捏造

夫婦であれば、妻が旦那の口に食べ物を運んで「アーン」と言って食べてもらうことなどたいしたことじゃないのかもしれない。だが、この二人は相変わらず清いお付き合いをしているわけで。「アーン」なんてした経験がないのだ。しかし今日は世の中では『ポッキーの日』と盛り上がっている。チャンスなのだ。これだけ世の中で『ポッキーの日』が盛り上がっていれば、どさくさにまぎれて「アーン」できちゃうかもしれない。

(やってみないと分からないわよね)

夏未は赤い頬を両手で押さえながらそう考える。そしてテーブルに置かれた今日買ってきたばかりの苺チョコ味のポッキーの箱を手に取り、それを数分眺める。すぅと息を吸ってから、夏未は決意したように一人頷きその箱を冷蔵庫にしまった。

***

「ただいまーっ」
「お、おかえりなさい。円堂君」
「どうした夏未。顔赤いぞ?」

帰宅した円堂にそう言われ一瞬ビクと肩を上げるが、平然とした様子で円堂に答える。円堂は不思議に思いながらも夏未のいつもと変わらぬ様子を見て、気のせいかと気にするのをやめた。

それから夏未はいつどのタイミングでポッキーを食べさせてあげるかを考えていた。夕食を食べ終わったあと二人で話をしていたが、全く耳に入ってこない。頭はつねに別のことを考えているのだ。

(どうしましょう。朝決意したというのに…)

落ち込んだ夏未の様子に円堂は不安になり、話を聞こうとするが夏未は頑固として話そうとしなかった。ただ首を振り続ける。円堂はふっとため息を一つついたあと、夏未の口に何かを差し込んだ。

「んっ…?」
「何があったか分からないけどさ、これ食べて元気出せよ夏未」
「…っ、」

そう言って円堂が口に入れたのはポッキー。一口食べて円堂を見ればニカと笑って夏未を見つめていた。夏未は嬉しくてたまらなくなり、ニヤけそうになる頬を必死で我慢した。それと同時に自分がやりたかった「アーン」をやられる側になってしまったことを悔しく感じる。夏未は少し考えた後ニヤリと笑って、円堂の口に自分の食べかけのポッキーを円堂の口に入れた。

「な、つみっ?!」
「ふふっ、お返しよ。円堂君」


私だってやるときはやるのよ
(やられっぱなしなんて、悔しいじゃない)


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