今回二度目となる練習試合の申し込みに空野葵は海王学園を訪れていた。雷門とは似たところが全く無いといっていいほどの外観の違いに改めて圧倒されながらも葵は目的の場所へと足をすすめた。一度だけ来たことがあるために何となくグラウンドの場所は分かる。大切な申込書類を胸に抱きしめながらグラウンドへと一歩一歩足をすすめると途中で聞き覚えのある声で名前を呼ばれる。声のする方へゆっくり顔を向ければそこには海王学園サッカー部のキャプテンである浪川が立っていた。汗をたくさん吸収したユニフォームを見た葵は彼がランニング中だったことにすぐ気づいた。
「あ、えっと、こんにちは。練習試合の申し込み書を持ってきたんですけど…」
「雷門のマネージャーか。わざわざありがとう」
一つ学年が上である浪川とぎこちなくも挨拶を交わした葵はその書類を浪川に差し出したが彼が受け取る気配が全くない。どうしたのだろうと首を傾げる葵に浪川はもごもごと何か言いにくそうにしている。
「あの?」
「あ、ああ。大事な書類だし雷門のマネージャーが直接渡したほうが良いんじゃないか?」
「うーん…たしかにそうですね。分かりました」
浪川の言葉に葵は少しだけ考え込んだあと、自分で渡すことにした。そして再びグラウンドへと足を運ぼうとしたとき浪川が自ら案内を申し出てきた。申し訳ないからいいですとと断る葵の言葉を押し退けて彼は自分の意見を貫き通す。頑として譲らない浪川の申し出に葵は甘えることにした。お願いしますね、と葵が微笑むと浪川は何故か顔を赤くして頷く。
「顔赤いようですけど熱でもあるんじゃ…?」
「い、いや!大丈夫だ!ランニングの後だからな、これぐらい普通だ」
心配して顔を覗き込む葵。追い打ちをかけるかのような行動に浪川の顔は更に熱くなっていく。心配性の葵が「はい、そうですか」と大人しく引き下がるはずもなく、更に心配して保健室へ行きましょうと提案した。大丈夫だと言い張る浪川だが、一度こうと決めたらそれを実行しなくては気がすまないのが空野葵だ。浪川の腕を掴んだと思えばグラウンドとは反対方向の校舎に歩き出す。
「ちょ、どこへ行くんだ…っ」
「保健室です。場所はどこですか?」
「…言わないぞ」
「それなら他の人の聞くので大丈夫です」
お節介モードになると急に強引になる葵。浪川はどうやらそのモードを発動させてしまったらしく浪川の制止の声も聞かずにどんどん校舎に近づいていく二人。
(前の試合のときの彼女のようだな…お節介なところは変わっていない)
浪川は掴まれた腕からジンジンと熱を帯びていくのを感じた。このまま身を任せるのも悪くないと、浪川は葵につかまれた腕を嬉しそうに見つめながら静かに笑みをこぼした。
未完成な青春
title by レイラの初恋
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復活感謝企画。あいかさんリクエスト。
「対戦申し込み書を海王学園に持っていく葵」でした。リクエストありがとうございました。
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