▽遊郭パロディ
・源氏名→織音
・茜は剣城の初恋の人(幼馴染)だが茜は覚えてない
・茜視点

誰でもいいから私を連れ出して欲しかった。この薄暗くて自由のきかない、欲に溺れた男女が絡み合うためだけの空間、遊郭から。毎晩訪れる恐怖、好きでもない男の床の相手。いつからだろう、こうして名も知らない金持ちの男たちの相手をするようになったのは。もう思い出せないほどに何度も交わってきた私は汚れている。連れ出してくれる男の人なんているはずもないのに、私はいつか現れるのではないかと密かに期待し続けた。

***

「織音、ご指名だよ」
「…はい」

普通なら指名が入ることは喜ばしいこと。現に指名が入った私を羨ましそうに周りの子達は見ている。指名が入っていない子はいつ自分が呼ばれるのかと目をぎらぎらと光らせている。毎日1人でも指名が入らないだけで人気はガタ落ちだからだ。「あいつは下手なんだ」「お得意様も別の子に乗り換えたらしいじゃないか」囁くように、けれど本人には届くような声量で馬鹿にしたように笑う。根性が腐っている。気分が悪くなってきた。今日ぐらいは休ませてもらおうかと姉さん女郎に申し出てみたけれど断られた。何でも今日は団体客、つまり床の相手をするわけではないらしい。床の相手をしなくてもいい…それだけで私の心は驚く程軽くなった。

「…今日のお相手をさせて頂きんす、織音でありんすぇ」

いつものように座礼をして自己紹介をすればざわめいていた座敷は一瞬静まり返った。私が何かしただろうかと頭を上げればそこには若い男の人が数人座っていた。そのうちの一人が熱っぽい瞳で私を見つめている。

「わっちの顔にナニかついていんすか? 」
「あ、いや、こういうところに来るのが初めてで緊張してるんですよ、こいつ。な!剣城くん!」
「…ああ」

熱っぽい瞳で私を見ていたのは剣城というらしい。隣に座っている男の人が私にそう説明してくれたけど、どうしてそんなに焦っているのか分からない。彼らは私を見た瞬間明らかに動揺していた、どうして?まるで長い間会っていなかった者と再会したときのような、驚きの表情。…私と誰かを重ねたのだろうか。たとえそうだとしても私には関係のないことだ。今の私にできることは彼らのお酌の相手をすること。

「今夜は楽しんでいってくんなまし」

いつもと変わらない貼り付けたような笑顔を作る。一瞬剣城という男が切なそうな表情を浮かべたような気がしたけれど、気にしないようにした。一人一人にお酌をして、彼らの話に適当に相槌をする。いつもと変わらない夜。けれど今夜が最後の夜だった、いつもと変わらない夜が。

私の日常がガラリと変わったのはその翌日のこと。昨晩お座敷の相手をした剣城という男が私を身請けしたのだ。突然のことで、すぐに理解することはできなかった。

夢のまた夢だと思っていた私を連れ出してくれる殿方が現れた。


一人の私が亡くなった
(元気でねと、姉さん女郎は涙を流して私を抱きしめた)

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サイト3周年記念/フリー小説
2013.02.09


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