男勝りの彼女が声を出して泣く姿など誰が想像できただろうか。
南沢は雷門サッカー部の旧部室で一人泣いているマネージャーの姿をたまたま見てしまった。もし人が来たら、なんてことも考えずに泣いているのか。声は部室の外に完全に漏れていた。そして床には点々とこぼれ落ちた涙の跡ができていた。横顔は見えない。腰よりも長い髪がぐしゃぐしゃに乱れて顔を隠していたからだ。
ほんの少しだけ開いた扉の隙間から彼女の泣く姿を静かに見ていた南沢だったが、しばらく経って彼は入ることを決意し、音を立てないようにゆっくりと部室内に入った。その瞬間泣き声はピタリと止み、彼女はゆっくりと彼の方を見た。

「…せ、と?」

泣き続けて腫れた目元はいいとして、水鳥の両頬は痛々しいほどに赤く晴れ上がり、ところどころ黒ずんでいた。明らかに誰かに殴られた痕だ。鼻の下には鼻血を拭いた跡も残っている。南沢は、これほど彼女を傷つけたのは誰なのか彼女に聞いて今すぐにでも犯人を殴りつけたかった。拳を強く握り部室の壁を強く殴りつける。だがその行動はただ水鳥の恐怖心を仰ぐだけであった。殴られているときのことでも思い出しのたかガタガタと震えて再び涙をこぼし始めた。

「瀬戸、大丈夫だ。大丈夫だから落ち着け」
「、い、やだ、こわいいたい。たすけて、っ」

咄嗟に水鳥を抱きしめて子供をあやすように優しく背中を撫でる。すると少し落ち着いてきたのか呼吸も安定し震えも収まった。だが相変わらず涙だけは止まらず南沢の制服の肩口を濡らし続けた。水鳥はしがみつくように南沢の制服を強く握り締める。南沢はそんな水鳥の姿を見て愛おしく感じた。そのせいでより犯人への怒りは募っていく。南沢は水鳥を胸に抱きしめながらどこかを睨みつけながら犯人への思いつく限りの痛々しい復讐方法を考えた。

「なあ、誰にやられたか言えよ」


泣かせていいのは俺だけ
(もし俺以外の奴が泣かせたらころしてやる)

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花火ちゃんへ。
8万ヒット&お誕生日おめでとう。全然めでたくない話で申し訳ない!


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