和やかな雰囲気が茶屋を包む。
だからこそ愛され続ける店なのだろう。
茶ひとつをとっても丁寧にいれられており、接客ひとつ、おしぼりひとつ。 それにも思いやりがあるのがわかる。
そんな場所で郁のはあ?!という驚きを隠せない声が響いた。
一気に周りの注目を集めた郁は咳払いをして体勢を整えた。
「坊、そんなバカみたいな事言っても誰も信じないわよ。」
反省を活かしてなのか、郁の声のボリュームはいくぶんか落ちていた。
先ほどの反応は少年のの言葉によって起きたものだった。
***
「さんざんだったわね、私に助けてもらったこともっと感謝したら?」
「なあ、笠沼。あの空を飛んでいる鉄の塊はなんだ?ひこうき、というやつか?」
「......坊、まずは名前を名乗ったら?」
意味不明な発言にふっかかりそうになるのを抑えて半分あきれぎみの態度を繕った。
「七松小平太だ!」
「あ、そう。」
「ここは天女様の世界か...?」
話が転々とし、郁は今まで驚くばかりだったものの今回は驚くまでもなく絶句した。
"天女"...ってなに。 頭がイカれてるのかこいつは...。
「坊、"天女"ってなに。」
郁は率直な質問を小平太にぶつけたが、返ってきた解答は素晴らしく意味のわからないものだった。
そして今に至る。
室町時代やら、忍術学園やら、逆ハー補正やら。
郁にとって理解しがたいものであった。
(信じようにも確信すべき証拠がない。でも坊を引き離すのには危険すぎる。ぁぁぁぁあああ、どうする!)
頭を抱え始めた郁を見て首をかしげる小平太を郁はお前のせいだと言わんばかりの表情で思い切り睨み付けた。
「あ、坊。悪いけどここはヘイセイじゃなくて江戸時代よ。」
思い出したように言う郁の表情はすでに落ち着きを取り戻していた。
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